たしかにお姫様に憧れたことはあるけれども、一夜の過ちから親会社の若社長に「キミ以外あり得ない」と溺愛されるなんて、ありえないですよね?

研修は三日で終わり、巣鴨食品の支社がある四国の徳島県へ戻った。
徳島県には、就職を機に来て二年になる。
職場には、のんびりとした雰囲気と温かみのある人たちが多く、働きやすい職場だ。
数日ぶりに出社すると、社内はいつもより騒然としていた。

「ちょっと、春香ちゃん! 大変なんよ~!」

関西弁にも少し似た、おっとりとした話し方。
これは、阿波弁というらしく、標準語で話す私からすると可愛らしく思える話し方だ。
いつもとは違うが、そんな話し方なので、こちらまで危機感を失いそうになる。

「どうしたんですか?」

そう尋ねると、パソコンの前まで引っ張られた。
パソコンの画面には、『人事異動』と表記がある。
あぁ、そういえばもうそんな時期だっけと壁にかけているカレンダーに目をやった。
巣鴨食品には、三月と十月に定例の異動があり、今回もその一つである。

「は……?」

大変って、何を言ってるんだろう。
それを確認する軽い気持ちでパソコンを見ていると思わず吹き出しそうになった。

『南田春香 東堂コーポレーション 事務課 十月一日付 着任』

そう表示されていたのだ。
みんなが大変と騒いでいたのは、このことだったのか……そう思っていると、ブブッとスマホが振動した。
< 13 / 23 >

この作品をシェア

pagetop