たしかにお姫様に憧れたことはあるけれども、一夜の過ちから親会社の若社長に「キミ以外あり得ない」と溺愛されるなんて、ありえないですよね?

***

九月二十五日。
着任まであと五日。
引っ越しの準備や色々と手続きがあるだろうと、今日が最後の出社日で送別会が開かれた。

「ほんま、あっという間やったなぁ」
「二年しかおらんかったけど、よう仕事してくれたし助かってたんよ」
「春香ちゃんが東京戻ったら寂しくなるわ。また、いつでも遊びに来てな?」

お開きになったのは、午後九時。
みんなに家まで送り届けられると、改めてここの人達の温かみに、胸がじーんと温かくなった。
そんな時に、ブブッとスマホが振動する。
温かかった心を一気に氷点下まで叩き落すといっても過言ではない東堂社長からのメッセージである。

『送別会、楽しかった?』

家に帰って来たタイミングで送ってきて、何で知ってるんだと言いたくなった。

『はい。おかげさまで』

そう返信をして、お風呂に行く準備をしたら今度は電話がかかってきた。
うわぁ……と、引いてしまったが、ここで出なければ、明日また何を言われるか分からない。
そろそろ切るだろうと思った頃、観念して通話ボタンを押した。

「……もしもし」
「こんばんは。声を聞くのは久しぶりだね」

あっけらかんとした様子で言う。
社長はどういうわけか、毎日メッセージを送ってくる。
たまに、私が既読無視で終わらせても次の日には『おはよう』と送って来る。
さすがに電話というのは、今日が初めてだった。
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