たしかにお姫様に憧れたことはあるけれども、一夜の過ちから親会社の若社長に「キミ以外あり得ない」と溺愛されるなんて、ありえないですよね?

「そうですね」

スピーカーにして、お風呂に行く準備をしながら片手間に電話を続けた。

「今、なにしてるの?」
「いえ。特になにも」
「嘘。スピーカーにしてるでしょ。色々聞こえてる」

何で分かるんだ。
そう思い、ピタリと動きを止めた。

「それで、今日はどうされたんですか。電話って珍しいですよね」

ドン引きしながら話を切り替えた。

「あぁ、そうそう。春香ちゃんっていつこっちに来るの?」
「明後日です。明日、荷造りした荷物を郵便局へ持って行ったら明後日には届くらしくて」
「そうなんだ。俺、引っ越しの手伝いに行くよ?」
「え。いや、いいですよ。荷物の搬入出は業者に頼んでますから」

家を知られてたまるか。
そう思って、上手くかわしたがそれでも引き下がらないのが社長である。

「でも、荷解きを一人では大変でしょ?」
「いいです。大丈夫です」
「そっか。でも、大変ならいつでも言ってよ。俺、いつでも行けるようにしておくから」

もし、家を知られてしまえば何かと用事を言いつけて部屋にやって来そう。
下心にしか思えなくて、乾いた笑みで返した。

「じゃあ、もう切るね。おやすみ」
「はい。おやすみなさい」

この男は、本当に何を言っているのだろうか。
呆れざるを得ないが、それをなるべく声に出さないようにして電話を切った。
その後、メッセージでも『おやすみ』と送って来たから、マメな人である。
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