たしかにお姫様に憧れたことはあるけれども、一夜の過ちから親会社の若社長に「キミ以外あり得ない」と溺愛されるなんて、ありえないですよね?

「いや、頼んでません。というより、なんで家知ってるんですか」
「え、だってここ俺の会社の社宅だから」

この男、会社を私物化したような言い方である。

「情報漏洩ですか? 職権濫用ですよね?」
「嫌だな、難しいこと言って。ただ、春香ちゃんを助けに来ただけなのに」
「いや、だから頼んでなんかーー」

そう言い切ろうとした時、彼の背後から「きゃー♡」や「東堂社長っ」と猫撫で声の社員の声がした。
このマンション、会社が一棟丸々買っているため、社員しか住んでいないのだ。
社長も社長で、黄色い声に慣れた様子で笑顔を浮かべて手を振っている。
チャラい。

「あの。もういいですか」
「ダメダメ。まだ春香ちゃんの手伝いしてないから」
「いや。だから、頼んでないですって」
「んー。それじゃあ仕方ないけど業者を呼んで、オートロック解除してもらおうか。理由は、“社員証”を無くした社員が今度は部屋の鍵をーー」

辺りに聞こえる大きな声で言う為、慌てて一階の自動ドアを開けるボタンを押した。

「……どうぞ」
「ん。ありがと」

何事もなかったかのような爽やかな笑みを浮かべているけれど、完全に腹は黒い。
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