たしかにお姫様に憧れたことはあるけれども、一夜の過ちから親会社の若社長に「キミ以外あり得ない」と溺愛されるなんて、ありえないですよね?

***

遡ること、数分前。

「んんっ……」

朝、目が覚めて真っ先に目に入ったのは見覚えのない真っ白な天井。
そういえば私、月曜から本社で研修を受けるために会社近くのホテルに泊まっていたのだと思い出した。
そして、時間を確認するためにスマホを置いてあるであろう位置に手を伸ばした時、スマホのような無機物の感触ではなくじんわりと温かい何かに触れているのが分かった。
何だろうと、重い頭をそちらへ向ける。
うぅ――飲み過ぎだ。頭痛い。
二日酔いの頭痛に耐えながら視線を向けると、そこにはイケメンの寝顔。
私、イケメンの顔にめちゃくちゃ触っていた。
しかも、彼氏じゃない――誰だこのイケメン。

「はっ!」

その瞬間、二日酔いはどこへやら。
ガバッと勢いよく上体を起こして目が点になった。
イケメンの寝顔。
見知らぬ部屋。
掛布団から覗く男の上半身――無駄な脂肪がなく、ほどよく鍛えられている。
生まれたままの姿である自分。
そしてベッド脇には――開封済みの避妊具の袋。
視線が目まぐるしく駆け巡る。
朝起きたばかりにしては、処理する情報が多すぎる。
そして、肌に直接触れる掛布団の感触に背中にはじんわりと嫌な汗がにじみ出た。

「……やってしまったぁ」

そして、今に至る。

「いや、でも待って……覚えはないけど、ちゃんと避妊はしてるわけだし問題はなさそうな気が……」

起こってしまったものは仕方ない。
事を致したという最大の問題は置いといて、プラスな方へと思考を向けるためにブツブツと呟いた。
すると「んんっ……」と声を漏らすイケメン。
そうだ、この人生きてるんだ。寝てるだけだった。
もし、ここで起きてしまって欲情でもされてしまったら。
一回も二回も変わらないよね、なんてクズみたいなことを考える人だったら――ヤバい。
一度失った貞操を、二度も奪われてたまるか。
こっそりとベッドから抜け出せば、イケメンを起こさないように服を整えて荷物をまとめた。
最後に、部屋全体を見渡して私物を取りこぼしていないことを確認した。
財布からお札を数枚取り出した。
(ここがいくらかなんてわからない――でも)
今後、この人と出会ってしまうかもしれないという最悪の可能性を引いてしまっても、後腐れがないようにお金を置いた。
そして、ベッドの脇に置いてあるメモにさらさらっと文字を書く。

『お先に失礼します。お金、置いておきます』

なんて、律儀に書き残して部屋を去った。
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