たしかにお姫様に憧れたことはあるけれども、一夜の過ちから親会社の若社長に「キミ以外あり得ない」と溺愛されるなんて、ありえないですよね?

「それ。何持って来たんですか?」
「ん? あぁ、色々とね。まず、俺が部屋に上がる用のスリッパ。あと、軍手、カッター、指定のゴミ袋、あと、お茶か水……それと、スポドリもあるけど、どれがいい?」
「……わざわざ買って来たんですか?」

ぱちぱちと瞬きの回数が増えた。
すると、社長も不思議そうに首を傾げる。

「その辺のホームセンターのだから、別に手に入れるのに苦労したとかはないよ?」

そういう意味で聞いたのではないのだけれど、社長の答えに思わず「ふふっ」と笑みが溢れた。

「……やっと笑った」
「え……?」
「春香ちゃん、飲んだ日から全然笑わなかったから。それがちょっと心配だったんだよね」

そう言って社長も笑い、思わず頬に手を添えた。
(たしかに……あの日から、あんまり笑えてなかったかも)
社長に指摘されると、笑えるくらいには、気持ちも回復していたのだと実感した。
よく考えれば、失恋して、知らない男と一夜を過ごして、社員証までなくして、それでもヘラッと笑えるほど鋼の心を持った女ではない。

「よーし、じゃあやっちゃおっか」
「はい。よろしくお願いします」

二人で軍手をはめれば、部屋の荷解きを始めた。
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