たしかにお姫様に憧れたことはあるけれども、一夜の過ちから親会社の若社長に「キミ以外あり得ない」と溺愛されるなんて、ありえないですよね?

「そ、そんな大事なスケジュールを変更するなんて……!」
「あー、大丈夫。毎月やってる定例のやつだから」
「いや、毎月やるほど大事ってことじゃないですか……!」

事の重大さをへらっとして流そうとする彼。
(ど、どうしよう……このせいで、もし何かあれば……!)
不安から視線を落としてぎゅっと拳を握れば彼の大きな手がふわっと頭に触れた。

「大丈夫だって。会議は毎月あるけど、春香ちゃんの荷解きは今日しかないわけだし。俺にとってはこっちの方が重要」
「い、いえっ……! それでは私の気が済みません……!」

そう言うと、途端に楽しそうに目を細めた。
そして、口角が上がる。

「へぇ。じゃあ、何かお礼でもしてもらおうかな」
「……はい?」

しまった、と思ったのは言葉にした後だった。
ここは私の部屋で、二人きりの状況。
社長の意味ありげな表情に、邪な想像しか浮かばない。
グッと拳を握りしめた。

「じゃあ、早速だけど」
「な、なんですか……!」

声が上擦り、体が強張る。
けれど、私が思っていたような事にはならなかった。

「名前で呼んでよ」
「え……? 名前、ですか?」

拍子抜けするようなお願いに、パチパチと瞬きが増えた。
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