たしかにお姫様に憧れたことはあるけれども、一夜の過ちから親会社の若社長に「キミ以外あり得ない」と溺愛されるなんて、ありえないですよね?

「……そうなんだ」

『どういうこと!?』『私達のことはどうなるのよ!?』『この泥棒猫!彼を誑かしたのね!』――もし、彼氏が浮気をしたら、こんな言葉を言うと思っていた。
というより、こういう言葉が出てくるドラマや小説を読んでいたから、自分もきっとそう言うと思っていたのだ。
しかし、実際はそんなこと言わない。
いや、言えない。
彼に対して愛情がなかったから?
そうではない。
唇が震えて、喉がきゅっと締まって、心拍数が上がって、うまく言葉にできなかった。

「子どもを一人で育てるのは大変だし、おろせなんて言えない……分かってくれるだろ?」

夏樹はこういう男である。
はっきりと言葉にはせず、どっちつかずなことを言う。
別れてくれ――そう言えば、悪者になるという気持ちはあったのだろう。
この状況はどう見ても、私が絶対的な被害者である。
それなのに、なぜか隣の女の方が『傷ついた側』みたいな顔をしている。

「すみませぇん。夏樹さんって大人で頼りがいがあってぇ。ついつい、色々聞いてもらってたらぁ……」

涙をちょちょぎらせている女が、悲劇のヒロインぶる。
か弱く見えるだろうが、こういう女は強かで図太い。
恐らく、ここにいる三人の中では彼女が最強である。
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