たしかにお姫様に憧れたことはあるけれども、一夜の過ちから親会社の若社長に「キミ以外あり得ない」と溺愛されるなんて、ありえないですよね?

「子どもができたなら……仕方ないよ」

心の中ではつらつらと言葉が出てくるのに、それを口には出せない。
震えて声を出せなかったというのが事実ではあるが、もし内心思っていることを口に出してしまったとしたら私は『悪者』になってしまうだろう。
彼氏が浮気をしても、彼女を妊娠させたとしても、ここで私が少しでもごねれば――『二人の幸せを壊す邪魔者』に見えてしまう。
というのも、ファミレスの席というのは、お互いに距離感が近い。
私達の話が聞こえているのか、周囲の客の視線がちらちらとこちらに向いているのは、二人の話を真剣に聞いている私でも分かった。
世間体を気にしてしまって、私は感情的になれなかった。

「話はそれだけ……だよね?」

ファミレスとはいえ、まさかこれから三人でご飯を食べようなんて話になるわけがない。
それでも、念のため確認すると夏樹は小さく頷いた。
その隣にいる女は私の言葉を聞くなり、両手で顔を覆いながら泣いているが、見逃さなかった。
手の隙間から見える口角が、にやりと上がっているのを。
もちろん、本人はそんなこと口が裂けても言わないだろう。
けれど、あの口元はどう見ても『私の勝ち』と言っていた。
私は、注文したけれどまだ届いていないカプチーノの金額に足る千円札を置いて店を後にした。
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