Bitter & Sweet


「じゃあね、また後で」


私と櫂の関係は、クラスメイトの親友ひとりを除き、周りは誰も知らない。

約1年前、櫂と付き合うようになった際、私が無理を言って彼にお願いした。

付き合ってることを誰にも言わないでほしい、と。

はじめは、どこか納得いかなさそうに『なんで?』と問い質されたけれど、上手く理由を説明すれば、渋々と言った口調で櫂本人も了承してくれた。

それは単純なもので、私自身が櫂と付き合っていくことに恐怖を覚えたからだ。


『右京くんが好きです、私と付き合ってください』


告白した当時の私は何も知らない幼な子のようで、『俺も』と、どこか照れくさそうに返してくれた櫂に、きらきらと胸をときめかせるだけのクラスメイトでしかなかった。

本当に何も知らなかったんだ。

見ての通り、櫂が男女問わず人気者だということは、当時の私でも知っている。

けれど、一部の目立たない女の子が抜け駆けして彼に近づけば、後の高校生活がどうなるのか。

そんな先の未来までは頭が回らず、付き合って3日後、櫂に想いを告げた隣のクラスの子が、その現場を運悪く目撃された末、酷い虐めを受け、後に不登校になったという噂を耳にした。

互いに好きだという気持ちだけでは結ばれない世の中があるんだと、急に怖くなった。

学生時代の告白なんて青春そのもので、今や彼女という特別な立ち位置を掴んだ私でも、櫂に対する周りの告白自体は本人の自由で、不服ながらも誰にもとめる権利なんてないと思っている。

それなのに、ただ自分の想いを伝えただけで心を殺されたように、その人の青春そのものを奪われなければいけないという、一部の派手な女の子たちの間で作られた暗黙のルールが理解できず、いまだに怖い。

それに、そんな薄っぺらい無意味なものを宗教のように崇拝して、学校の決まりごとのように集団で守っている他の女の子たちにも恐怖を覚えて、いまだに立ち向かうこともできない私を、櫂は根っからの恥ずかしがり屋だと思っている。


『みんなに知られたら恥ずかしい、から』


櫂に理由を問い質された私は、本当の思いなんて言えなかった。

余計な不安や心配を与えたくなかったし、変に気を遣われるより、そのままの彼で傍にいてほしかったから。

いつ公になるか分からない先の未来に怯えながらも、櫂には本音のひとつも言えず、私は今も尚、こうして彼と過ごす時間を、1分1秒も無駄にしないように噛みしめている。

< 5 / 7 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop