氷の副社長は、熱に浮かされた私を帰さない
 四日目の朝、体温計は三十六度五分を示す。
 三回測った。三回とも同じ。

「平熱です」

 リビングに下りてそう報告すると、柳井副社長はコーヒーカップを置いて、短くうなずいた。

「先生に連絡する。入浴の許可を取る」
「お風呂!」

 自分でも驚くくらい大きな声が出た。

 四日ぶりだった。身体を拭くだけの生活も、もう四日になる。
 清潔な部屋で、清潔なパジャマを着せられて、それでも髪だけはどうにもならなくて、私は毎朝鏡を見ないようにしていた。

「そんなに嬉しいか」
「嬉しいです。やっと人間に戻れます!」
「……お前は最初から人間だ」

 真顔で言われて、私は返す言葉を失った。
 この人は、たまにこういうことを、なんの装飾もなく言う。
 嬉しくて、でも、同時に、胸の奥がちくりとした。

 ――平熱。

 つまり、あと二日で、解熱後二日が経つ。
 つまり、あと三日で、私はここを出る。
 嬉しいはずの数字が、どうしてこんなに重たいんだろう。

 夜、許可の下りたお風呂に入った。
 浴室は、うちの部屋のキッチンより広い。
 円形でジャグジーが付いていて、窓の外に夜景があって、湯船に浸かりながら東京を見下ろすという、人生に一度あるかないかの体験。

 どこかの高級ホテルみたいに贅沢すぎて、逆に落ち着かない。
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