氷の副社長は、熱に浮かされた私を帰さない
 部屋のドアを開けた瞬間、懐かしい匂いと、少しだけ冷たい空気が流れ出してきた。

 ――寒い。

 九月なのに、部屋の中のほうが外より寒い気がした。
 ワンルームの八畳、七日前に慌てて出たままの、脱ぎ散らかしたカーディガン。
 飲みかけのペットボトル。畳んでいない洗濯物。

 狭いはずなのに、七日間過ごした広い部屋よりやけに広く感じた。

 冷蔵庫を開けると、ゼリー飲料が二本。
 それだけ確認して閉めて、床に座り込む。

 誰も、「食え」と言わない。
 誰も、薬の時間を教えてくれない。
 誰も、私の髪を乾かさない。

 当たり前だ。ずっとそうだった。
 七日前まで、それが私の普通だった。

 なのに。
 鼻の奥がつんとして、視界が滲むのを隠すように膝を抱える。

 この一週間は、ぜんぶ、あの人の善意だった。
 資産の整備だって、本人がそう言った。
 私がそこに勝手に、恋愛感情を持ち込んでしまっただけ。

「最低……」

 ――ピンポン。

 インターホンが鳴った。モニターに映った顔を見た瞬間、考えるより先にオートロックの解除ボタンを押し、慌てて部屋のドアまで開けて外へ飛び出す。
 やがて廊下の向こうでエレベーターが止まり、中から副社長がこちらへ歩いてきた。
 手に、小さな箱を持っていた。
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