​『破滅の先で、愛を知る』 ​〜サレ妻の復讐劇と、危険な年下男の溺愛〜

「言ったでしょう」

律の手が伸びる。

指先が栞の顎へ触れた。

逃げる間もなく、そっと持ち上げられる。

視線が絡む。

「ずっと、あなたに会いたかったって」

「……どういう意味?」

答えはない。

代わりに。

律の瞳が、栞を捉える。

深く。

暗く。

底が見えない。

「あなたが傷ついているのを見るたび」

低い声だった。

「壊したくなった」

「……雅也を?」

「全部です」

ぞくり。

背筋が震える。

「あなたを傷つけるものを、全部」

指が頬へ移る。

慈しむように。

けれど、その目に宿るものは優しさだけではない。

「でも同時に」

律が近づく。

「嬉しかった」

「……え?」

「傷つけば傷つくほど、あなたはあの男から離れていく」

耳元に、吐息が触れる。

「僕のところへ来る理由が増える」

心臓が跳ねた。

逃げなければ。

そう思うのに。

身体が動かない。

「最低でしょう?」

囁く声。

栞は答えられなかった。

「あなたを救いたい」

律の指が頬をなぞる。

「でも」

その声が、さらに低くなる。

「僕にしか救えないところまで、あなたを追い詰めたいとも思ってる」

「律くん……」

「だから、いい人だと思わないでください」

初めてだった。

律自身が、自分を危険だと言ったのは。

「僕はあなたが思っているほど、優しくない」

「…………」

「あなたを自由にしてあげたいわけでもない」

律が栞を見る。

「復讐が終わったら」

一拍。

「あなたは、もう誰の妻でもなくなる」

その言葉に。

胸が震えた。

怖かった。

なのに。

――誰の妻でもなくなる。

その言葉だけが。

どうしようもなく甘く聞こえた。
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