『破滅の先で、愛を知る』 〜サレ妻の復讐劇と、危険な年下男の溺愛〜
「来月」
律が言った。
「雅也は社内の大規模プロジェクトの発表会を控えています」
「……知ってる」
雅也が何度も自慢していた。
これが成功すれば、さらに上へ行ける。
役員にも顔を覚えてもらえる。
自分の将来を決める大仕事だと。
「そこで」
律の声が低くなる。
「すべてを明るみに出す」
栞の心臓が大きく鳴った。
「不貞も。不正も」
律は栞を見つめた。
「彼が一番輝いている瞬間に」
その言葉だけが、やけにはっきり耳へ届いた。
「……全部、失わせるの?」
「はい」
即答だった。
「仕事も」
「はい」
「信用も」
「はい」
「莉子さんも?」
律が微笑む。
「必要なら」
怖い。
この人は本気だ。
栞が望めば、本当にやる。
そんな確信があった。
「やりましょう、栞さん」
律が身を寄せる。
距離が縮まる。
息が触れそうなほど近い。
「あなたが決めるんです」
低い声が、甘く耳へ入り込む。
「あなたが合図を出せばいい」
「…………」
「そのあとは、僕が全部やります」
あまりにも魅力的だった。
だからこそ。
恐ろしかった。
栞は手帳を握りしめる。
「どうして……?」
「何がです?」
「どうして、そこまでしてくれるの?」
律の瞳を見つめる。
「私たち、会ったばかりでしょう?」
一瞬。
律の表情が消えた。
「……会ったばかり」
ぽつりと繰り返す。
その言い方に、違和感を覚えた。
「律くん?」
「そうですね」
笑った。
けれど。
今までとは違う。
何かを隠すための笑顔に見えた。