​『破滅の先で、愛を知る』 ​〜サレ妻の復讐劇と、危険な年下男の溺愛〜

「五年前」

栞は続ける。

「蓮見建設は、不正取引に関わったと告発された」

律は黙っている。

「でも、実際に裏で数字を操作していたのは別の人間だった」

風が吹く。

コピー用紙が震えた。

「雅也だった」

「…………」

「あなたのお兄さんは責任を押しつけられて」

喉が詰まる。

それでも言った。

「亡くなった」

長い沈黙。

やがて。

律が口を開いた。

「……よく調べましたね」

いつもの柔らかな声ではなかった。

低く。

冷たい。

初めて聞く、律の本当の声。

「どうして教えてくれなかったの?」

「必要がなかったからです」

胸が痛んだ。

「必要が……なかった?」

「はい」

「じゃあ」

栞は彼を見る。

「私に近づいたのも?」

律は答えない。

「花屋で会ったのも?」

沈黙。

「偶然じゃなかった?」

それでも。

律は否定しなかった。

栞の胸が締めつけられる。

「私が雅也の妻だったから?」

ようやく。

律が目を閉じた。

「……はい」

たった二文字。

それなのに。

雅也の不倫を知った夜より。

痛かった。

「そっか」

笑おうとした。

できなかった。

「私」

声が震える。

「また馬鹿だったんだ」

「栞さん」

「雅也には、妻じゃなくて家政婦として使われて」

「違う」

「あなたには復讐の道具として使われた」

「違います」

「何が違うの!」

初めて。

律へ怒鳴った。

律が黙る。

「同じじゃない!」

涙が滲む。

「結局、あなたも私を見てなかった!」

「違う!」

律の声が響いた。

栞は息を呑んだ。

初めてだった。

律が感情を剥き出しにしたのは。
< 16 / 27 >

この作品をシェア

pagetop