『破滅の先で、愛を知る』 〜サレ妻の復讐劇と、危険な年下男の溺愛〜
「五年前」
栞は続ける。
「蓮見建設は、不正取引に関わったと告発された」
律は黙っている。
「でも、実際に裏で数字を操作していたのは別の人間だった」
風が吹く。
コピー用紙が震えた。
「雅也だった」
「…………」
「あなたのお兄さんは責任を押しつけられて」
喉が詰まる。
それでも言った。
「亡くなった」
長い沈黙。
やがて。
律が口を開いた。
「……よく調べましたね」
いつもの柔らかな声ではなかった。
低く。
冷たい。
初めて聞く、律の本当の声。
「どうして教えてくれなかったの?」
「必要がなかったからです」
胸が痛んだ。
「必要が……なかった?」
「はい」
「じゃあ」
栞は彼を見る。
「私に近づいたのも?」
律は答えない。
「花屋で会ったのも?」
沈黙。
「偶然じゃなかった?」
それでも。
律は否定しなかった。
栞の胸が締めつけられる。
「私が雅也の妻だったから?」
ようやく。
律が目を閉じた。
「……はい」
たった二文字。
それなのに。
雅也の不倫を知った夜より。
痛かった。
「そっか」
笑おうとした。
できなかった。
「私」
声が震える。
「また馬鹿だったんだ」
「栞さん」
「雅也には、妻じゃなくて家政婦として使われて」
「違う」
「あなたには復讐の道具として使われた」
「違います」
「何が違うの!」
初めて。
律へ怒鳴った。
律が黙る。
「同じじゃない!」
涙が滲む。
「結局、あなたも私を見てなかった!」
「違う!」
律の声が響いた。
栞は息を呑んだ。
初めてだった。
律が感情を剥き出しにしたのは。