『破滅の先で、愛を知る』 〜サレ妻の復讐劇と、危険な年下男の溺愛〜
「……最初は」
律が呟く。
「そうでした」
栞の胸が痛む。
「あなたは、神谷雅也に一番近い人間だった」
律の瞳に。
暗いものが宿る。
「妻なら、あの男の懐へ入れる」
一歩。
近づいてくる。
「油断させられる」
もう一歩。
「壊すための鍵になる」
「……最低」
「ええ」
律は否定しなかった。
「最低です」
栞は後ろへ下がる。
「来ないで」
それでも律は止まらない。
「来ないで!」
背中が木に触れた。
逃げ場がなくなる。
律が目の前に立つ。
「でも」
「……っ」
手首を掴まれた。
「それなら、どうして」
律の声が震えていた。
「あなたが泣くたび、こんなに苦しかったんでしょうね」
「…………」
「どうして、あなたがあの男のために料理していると思うだけで腹が立ったんでしょう」
「律くん……」
「どうして」
掴んでいた手から力が抜ける。
代わりに。
指が絡んだ。
「あなたが僕を怖がるたび、嫌われたくないと思ったんでしょう」
栞は何も言えなかった。
律の顔が。
苦しそうだった。
初めて見る顔。
「計算外だった」
律が笑う。
ひどく歪な笑顔だった。
「全部」
「…………」
「あなたはただの道具だったはずなのに」
律の額が、栞の額へ触れる。
「傷に触れるたび」
息が震える。
「泣いている顔を見るたび」
近い。
「笑ってくれるたび」
律が目を閉じた。
「僕の方が、おかしくなった」
「……それを信じろっていうの?」
「信じなくていい」
即答だった。
栞が目を見開く。
「許さなくてもいい」
「…………」
「憎んでもいい」
律の腕が栞の背へ回る。
「でも」
強く。
抱き寄せられた。
「離れるのだけは無理です」