『破滅の先で、愛を知る』 〜サレ妻の復讐劇と、危険な年下男の溺愛〜
「……勝手ね」
律の胸の中で。
栞は呟いた。
「はい」
「私を利用して」
「はい」
「騙して」
「はい」
「それで、離さないって?」
「はい」
「最低」
「知っています」
栞は律の胸を押した。
けれど。
離れない。
「復讐は終わったでしょう」
「終わりました」
「だったら、私はもう必要ない」
その瞬間。
律の腕が強くなった。
「二度と言わないで」
低い声だった。
栞の心臓が跳ねる。
「必要ないなんて」
「…………」
「僕があなたを利用したことは否定しません」
律の指が。
栞の背中で震えていた。
「でも今は」
声が掠れる。
「あなたがいないと困るのは、僕の方です」
栞は目を閉じた。
信じていいのか。
分からない。
雅也を信じて。
裏切られた。
律を信じかけて。
利用されていた。
もう。
誰かを信じるのが怖い。
なのに。
この腕の中から離れることも。
同じくらい怖かった。
「復讐は終わりました」
律が耳元で囁く。
「神谷雅也は、もうどうでもいい」
「…………」
「兄のことも」
一瞬。
律の声が震える。
「忘れることはできない」
それでも。
「でも、僕はもう復讐のためにあなたを欲しいんじゃない」
栞はゆっくり目を開けた。
律と目が合う。
そこにはもう。
初めて花屋で会った夜の、完璧な微笑みはなかった。
苦しくて。
醜くて。
必死で。
ひどく人間らしい男がいた。
「栞さん」
律が囁く。
「僕は、あなたを愛してしまった」
胸が痛んだ。
「……遅いよ」
「はい」
「もっと早く言ってよ」
「言えませんでした」
「どうして」
律が微かに笑った。
「言ったら」
栞の頬へ手を添える。
「あなたを利用できなくなるから」
「……本当に最低」
「はい」
それなのに。
栞の目から。
涙が落ちた。