​『破滅の先で、愛を知る』 ​〜サレ妻の復讐劇と、危険な年下男の溺愛〜

「……勝手ね」

律の胸の中で。

栞は呟いた。

「はい」

「私を利用して」

「はい」

「騙して」

「はい」

「それで、離さないって?」

「はい」

「最低」

「知っています」

栞は律の胸を押した。

けれど。

離れない。

「復讐は終わったでしょう」

「終わりました」

「だったら、私はもう必要ない」

その瞬間。

律の腕が強くなった。

「二度と言わないで」

低い声だった。

栞の心臓が跳ねる。

「必要ないなんて」

「…………」

「僕があなたを利用したことは否定しません」

律の指が。

栞の背中で震えていた。

「でも今は」

声が掠れる。

「あなたがいないと困るのは、僕の方です」

栞は目を閉じた。

信じていいのか。

分からない。

雅也を信じて。

裏切られた。

律を信じかけて。

利用されていた。

もう。

誰かを信じるのが怖い。

なのに。

この腕の中から離れることも。

同じくらい怖かった。

「復讐は終わりました」

律が耳元で囁く。

「神谷雅也は、もうどうでもいい」

「…………」

「兄のことも」

一瞬。

律の声が震える。

「忘れることはできない」

それでも。

「でも、僕はもう復讐のためにあなたを欲しいんじゃない」

栞はゆっくり目を開けた。

律と目が合う。

そこにはもう。

初めて花屋で会った夜の、完璧な微笑みはなかった。

苦しくて。

醜くて。

必死で。

ひどく人間らしい男がいた。

「栞さん」

律が囁く。

「僕は、あなたを愛してしまった」

胸が痛んだ。

「……遅いよ」

「はい」

「もっと早く言ってよ」

「言えませんでした」

「どうして」

律が微かに笑った。

「言ったら」

栞の頬へ手を添える。

「あなたを利用できなくなるから」

「……本当に最低」

「はい」

それなのに。

栞の目から。

涙が落ちた。
< 18 / 27 >

この作品をシェア

pagetop