『破滅の先で、愛を知る』 〜サレ妻の復讐劇と、危険な年下男の溺愛〜
――数か月後。
潮の香りがする。
窓の向こうから。
ざあん。
ざあん。
規則正しい波の音が聞こえていた。
海沿いの小さな町。
古い平屋。
栞は縁側近くのテーブルで、小さなガラス瓶に花を活けていた。
庭で摘んだ花だ。
豪華ではない。
名前さえ知らない。
白く小さな花。
一本。
二本。
少し角度を変える。
「……うん」
栞は微笑んだ。
これでいい。
昔なら。
もっと考えていた。
花瓶とのバランス。
部屋の配色。
人からどう見えるか。
完璧かどうか。
でも。
今は。
自分が綺麗だと思えば、それでいい。
窓ガラスに、自分の顔が映る。
少し伸びた髪。
薄い化粧。
ゆったりとした服。
神谷雅也の妻だった頃とは。
まるで違う。
「…………」
不思議だった。
何も持っていない。
肩書きも。
華やかな暮らしも。
完璧な妻という役割も。
それなのに。
今の自分の方が。
ずっと自分らしい。