落ちこぼれ芸能科ですが、演技の天才ヒロインが舞台で全員勝たせます。
知らない番号から届いたメッセージを見つめたまま、小春は足を止めた。

『君の演技、少し危ういね』
『気をつけたほうがいい。本番前に壊れるよ』

 夜風が、指先の熱を冷ましていく。
 けれど胸の奥は、逆にざわざわとうるさくなっていった。

「どうした」

 隣で立ち止まった桜井蓮が、小春の顔をのぞきこむ。
 その声は落ち着いているのに、目だけは少し鋭い。

「……なんでもない」

「なんでもない顔じゃない」

「え」

「顔に出てる」

 そう言われて、小春はあわててスマホを胸の前に引き寄せた。
 でも、その動きのほうが余計に怪しかったらしい。

 蓮が無言で手を差し出す。

「見せろ」

「え、でも」

「白雪」

「……はい」

 名前を低く呼ばれると、逆らえない。
 小春はしぶしぶスマホを差し出した。

 蓮は画面を見た瞬間、表情を変えた。
 いつもの無表情に見える顔が、ほんのわずかに硬くなる。

「これ、誰からだ」

「たぶん……一ノ瀬くん」

「やっぱりか」

 蓮は小さく息をついたあと、スマホを返してくる。

「返事はするな」

「でも、どういう意味か気になる」

「気にする必要はない」

「あるよ」

 思ったより強い声が出た。
 自分でも少し驚くくらい、胸の中にひっかかっていたらしい。

「危ういとか、壊れるとか、そんな言い方されたら気になるに決まってる」

「……」

「わたし、何か見抜かれたのかな」

 ぽつりとこぼした言葉に、蓮の目が細くなる。

「見抜かれたかどうかなんて関係ない」

「でも」

「大事なのは、おまえが今どうするかだ」

 はっきりした声だった。
 まっすぐで、迷いがなくて、聞いているだけで少しだけ気持ちが落ち着く。

「一ノ瀬カイは、相手を揺らすのがうまい」

「揺らす?」

「言葉で相手の隙を探る。舞台の上でも外でもな」

「……そうなんだ」

 蓮は一度、夜空を見上げるように視線を動かした。
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