落ちこぼれ芸能科ですが、演技の天才ヒロインが舞台で全員勝たせます。
「……昔、ちょっとやってただけ」

「ちょっとじゃないよね」

「うるさい」

「じゃあ、見せて」

「は?」

「ダンス」

「なんでそうなるの」

 ぴしゃりと言い返されても、小春は引かない。

「だって見たいもん」

「見たいで済ませないで」

「お願い」

「いや」

「お願い、レイナちゃん」

「近い!」

 気づけばまた距離を詰めていたらしい。
 レイナが一歩下がる。

 その様子に、クラスの何人かが吹き出した。

「白雪さん、またやってる」

「距離ばぐってるって」

「昨日も桜井に怒られてたよな」

 その瞬間。

「白雪」

 すっと低い声が落ちる。

 小春はぴたりと動きを止めた。

「……はい」

「近い」

「やっぱり?」

「やっぱり、じゃない」

 蓮は冷静な顔をしている。
 でもその目が少しだけ鋭いのを見て、クラスの空気がまたざわつく。

「え、これまた?」

「桜井くん、わかりやす」

「やっぱ嫉妬してない?」

「してない」

 蓮が即答する。

 でも、その速さがもう怪しい。

 レイナがじっとそのやりとりを見てから、小さく鼻を鳴らした。

「……ばかみたい」

「えっ」

「でも」

 レイナは前髪をかきあげるようにして、少しだけ視線を伏せた。

「そこまで言うなら、一回だけ」

「ほんと!?」

「一回だけだから」

「やった!」

 小春の顔がぱっと明るくなる。

 レイナはその反応に少しだけたじろいだみたいだったけれど、もう後には引けないと思ったのか、舞台中央へ歩き出した。

「音、ある?」

「ある」

 蓮がすぐに返し、スマホを操作する。

 数秒後、静かなビートが劇場に流れ始めた。

 レイナは無言で目を閉じる。
 そして、イントロに合わせて一歩踏み出した瞬間。

 空気が変わった。

「……っ」

 思わず、小春は息をのむ。

 きれい。
 ただそれだけじゃ足りないくらい、目を奪われる。

 レイナの動きは鋭いのにしなやかで、ひとつひとつの角度が完璧だった。無駄がなくて、強くて、でもどこか切なさまである。
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