落ちこぼれ芸能科ですが、演技の天才ヒロインが舞台で全員勝たせます。
クラス中が見入っている。

 曲が止まったあともしばらく誰も声を出せなかった。

「すご……」

「なに今」

「やばくない?」

 ざわめきが広がる中、レイナは少しだけ息を乱しながら顔をそむけた。

「……これで満足?」

「満足どころじゃないよ!」

 小春は勢いよく駆け寄る。

「レイナちゃん、すっごくかっこいい!」

「ちょ、近いって」

「絶対これ舞台に入れたい!」

「は?」

「レイナちゃんのダンス、武器になる!」

 レイナは目を丸くした。

「武器」

「うん。しかも、めちゃくちゃ強い武器」

 小春の声は弾んでいた。

「ねえ蓮くん!」

「ああ」

 蓮はもう答えを決めていたみたいに、静かにうなずく。

「黒宮のダンスは使う」

「えっ」

「役だけじゃなく、構成も変える」

 その一言に、クラスの空気がまた大きく動く。

「構成まで!?」

「そんなに変えるの?」

「でも今の見たら納得かも」

 レイナは戸惑ったように小春と蓮を見比べた。

「ちょっと待って。私、やるなんて言ってない」

「やって」

 小春がまっすぐ言う。

「レイナちゃんが舞台に立ったら、絶対みんな見ちゃう」

「……」

「そんな才能、埋もれさせたくない」

 レイナの唇が、かすかに揺れる。

「……ほんと、勝手」

「うん」

「強引」

「うん」

「むかつく」

「ごめん」

「……でも」

 レイナは少しだけ目を伏せたあと、ふっと息をついた。

「嫌いじゃないかも」

「え」

「その、まっすぐなの」

 小さな声だった。
 でも、たしかにそう聞こえた。

 小春がぱっと笑う。

「じゃあ!」

「まだ全部認めたわけじゃない」

「えー」

「でも、やるならちゃんとやる」

 その言葉に、劇場の空気が明るく弾けた。

「黒宮が入るの強すぎ!」

「C組、なんか本気っぽくなってきた!」

「ちょっとわくわくするかも!」

 そのざわめきを聞きながら、小春は胸の奥が熱くなるのを感じていた。

 ひとりずつでもいい。
 こうしてみんなの中の光を見つけていけたら、きっと本当に変われる。

 そう思った、そのとき。

「白雪さん」

 後ろから小さく呼ばれて振り向くと、白峰くんが立っていた。

「なに?」

「さっきの相手役の話」

「うん」

「……やる」

「ほんと!?」

「その代わり」

 白峰くんは少しだけ照れたように視線をそらす。

「逃げそうになったら、ちゃんと止めて」

 小春の顔が、ふわっとほころぶ。

「もちろん」

 そう答えた瞬間。

「白雪」

 またしても蓮の声が落ちる。

「今度はなんで?」

「……近い」

 小春はきょとんとしてから、自分がまた白峰くんとの距離を詰めていたことに気づいた。

「あ」

「わざとか?」

「違うよ!」

「無自覚がいちばん悪い」

 低く言いながらも、蓮の耳がほんの少し赤い。

 それを見たレイナが、さっきまでより少しだけやわらかい顔で言った。

「……桜井くんって、ほんとわかりやすい」

「黒宮まで言うのか」

「だって事実でしょ」

 その一言で、また笑いが広がる。

 昨日まで、ばらばらだったクラス。
 なのに今は、ちゃんと同じ空気の中で笑っている。

 このままいける。
 そんな予感が、小春の胸に確かに灯っていた。
< 23 / 44 >

この作品をシェア

pagetop