落ちこぼれ芸能科ですが、演技の天才ヒロインが舞台で全員勝たせます。
「思ったより、ちゃんと稽古してるんだね」

 そこに立っていたのは、一ノ瀬カイだった。

 その後ろには、A組の生徒が数人いる。制服の着こなしからして、C組とは空気が違う。自信と華やかさをそのまま形にしたみたいな集団だった。

 その中でもひときわ目を引いたのは、長い巻き髪の女子生徒。

 香坂ルミナ。

 A組の主演女優候補として有名な、華やかな美少女だ。

「A組……」

「なんでここに」

「見学?」

 ざわめくC組の中、一ノ瀬はまるで自分の舞台みたいに自然な顔で中へ入ってくる。

「先生に許可はもらってるよ」

 そう言いながら、一ノ瀬の目はまっすぐ小春を捉えていた。

「気になったんだ」

「何が」

 小春が聞き返すと、一ノ瀬は少しだけ笑う。

「君が」

 その場の空気が止まる。

「は?」

 誰より低い声を出したのは、蓮だった。

 一ノ瀬はその反応を面白がるように目を細める。

「昨日の忠告のあとで、どんな顔して舞台に立つのかなって思って」

「……」

「でも、思ったより平気そうだね」

 小春はぎゅっと台本を持つ手に力をこめた。

 挑発されている。
 わかってる。わかっているのに、目をそらしたくない。

「平気だよ」

「ほんとに?」

「ほんと」

 一ノ瀬は少しだけ首をかしげる。

「じゃあ、見せてよ」

「え」

「君の演技」

 劇場の空気が、ぴんと張る。

「せっかくだしさ」

 一ノ瀬はゆっくりと舞台に近づく。

「昨日みたいな即興でもいい」

「一ノ瀬」

 蓮が一歩前に出る。

「おまえに見せる必要はない」

「必要はなくても、見られるくらいの自信はあるでしょ?」

 一ノ瀬の言葉は軽い。
 でも、刃みたいに鋭い。

「それとも」

 その目がすっと細くなる。

「やっぱり揺れてる?」

「……っ」

「白雪さん」

 白峰くんが心配そうに小さく呼ぶ。

 レイナも、えるも、みんなが息をのんで見守っていた。

 小春は、一度だけ深呼吸をした。

 怖くないと言えば嘘になる。
 けれど、ここで逃げたくない。
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