落ちこぼれ芸能科ですが、演技の天才ヒロインが舞台で全員勝たせます。
「わたしは大丈夫」

「白雪」

「蓮くんも」

 小春は蓮のほうを見る。

「ありがとう。でも、わたし自分で立ちたい」

 蓮が息をのむ気配がした。

 小春はもう一度、一ノ瀬へ向き直る。

「危ういって言われても、たしかにそうかもって思う」

「……」

「でも、それでもやめない」

 声は、不思議なくらい静かだった。

「演じるのが好きだから」

 一ノ瀬は黙って聞いている。

「みんなを輝かせたいし、自分もこの舞台でちゃんと立っていたい」

 小春は台本を胸の前でぎゅっと持ち直した。

「だから、見てるだけなら好きにして」

「……」

「でも、揺らそうとしても無駄だから」

 数秒の沈黙のあと、一ノ瀬がふっと笑う。

「ほんとに面白いな、君」

「その言い方やめて」

「ごめん」

 全然悪びれてない顔で、一ノ瀬は言う。

「でも、ますます興味出た」

「いらない」

 小春が即答すると、C組の何人かが吹き出した。

「白雪さん強」

「さすがすぎる」

「一ノ瀬相手にそれ言えるのやばい」

 その空気に、一ノ瀬も少しだけ目を細める。

「じゃあ今日はこれで帰るよ」

「最初からそうして」

「でも、ひとつだけ」

 一ノ瀬は最後に、蓮を見た。

「桜井」

「なんだ」

「ちゃんと支えないと、ほんとにこの子壊れるかもよ」

 その言葉を残して、一ノ瀬はA組の生徒たちを連れて劇場を出ていった。

 扉が閉まったあとも、しばらく誰も動けなかった。

 重たい静けさ。

 それを破ったのは、レイナだった。

「……感じ悪」

「レイナちゃん、今それ言う?」

「だってほんとでしょ」

 えるが困ったように笑う。

「でも、なんか怖かったね」

「怖かった……」

 白峰くんも小さくつぶやく。

 小春はそんなみんなの声を聞きながら、まだ胸の奥に残るざわつきを押さえこんでいた。

 すると。

「今日はここまで」

 蓮の声が落ちる。

「え」

「桜井?」

「少し予定を変える」

 そう言って、蓮は小春のほうを見た。

「白雪、残れ」

「……っ」

 その一言に、クラスの空気が一気に変わる。

「えっ」

「ふたりきり?」

「また!?」

 えるの目が一気に輝く。

 蓮は冷たい目でそちらを見る。

「桃園」

「はーい、帰りまーす」

 ものすごく楽しそうに、えるは逃げるように手を振った。

 みんながばたばたと帰り支度を始める中、小春だけが舞台の上に残される。

 胸が少しだけうるさい。
 きっと、怒られる。たぶん。

 でも。

 蓮の目は怒っているだけじゃない気がした。
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