落ちこぼれ芸能科ですが、演技の天才ヒロインが舞台で全員勝たせます。
「それが腹が立つ」

「え」

「違う」

 蓮は少しだけ眉を寄せる。

「腹が立つんじゃない」

 そこで言葉を切って、小さく息を吐く。

「……怖いんだ」

 その一言に、小春の胸が大きく鳴る。

「おまえが、いなくなりそうで」

 静かな劇場に、その言葉だけが残る。

 小春はしばらく声が出せなかった。

 いなくなりそう。
 そんなふうに、思われていたなんて。

「蓮くん、わたし」

「無理するな」

 かぶせるように言われる。

「強がるな」

 また一歩、距離が縮まる。

 近い。
 そう思った瞬間だった。

 蓮の手が、小春の腕をつかんだ。

「え」

 強い力ではない。
 痛くもない。
 でも、逃がさないみたいな熱があった。

「……ちゃんと、ここにいろ」

 その言葉と一緒に、ぐい、と引かれる。

 次の瞬間、小春の体は蓮の胸にぶつかっていた。

「……っ」

 一瞬、何が起きたのかわからない。

 でも、すぐに気づく。

 抱き寄せられている。

 蓮の腕の中に、自分がいる。

 制服越しに伝わる体温が熱くて、心臓の音がうるさくて、息の仕方までわからなくなる。
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