落ちこぼれ芸能科ですが、演技の天才ヒロインが舞台で全員勝たせます。
「れ、蓮くん」

「動くな」

 耳のすぐ近くで落ちた声に、肩がびくっと揺れる。

「今、離したくない」

 その言葉に、頭が真っ白になった。

 離したくない。
 今、そう言った。

 小春は蓮の胸元をぎゅっとつかむ。
 突き放さなきゃいけない気もするのに、できない。むしろ、安心してしまう自分がいる。

「……こわかった」

 気づけば、自分の口からそんな言葉がこぼれていた。

 蓮の腕が、わずかに強くなる。

「一ノ瀬くんに言われたこと?」

「ううん」

 小春は小さく首を振る。

「ちゃんとできるって言ったのに」

「……」

「ほんとはちょっと、こわかった」

 舞台に立てば大丈夫だと思っていた。
 演じれば、全部飲みこめると思っていた。

 でも違った。
 あのお題を出された瞬間、胸の奥の、まだ触れたくないところまで揺れた。

「でも、みんなの前で弱い顔したくなくて」

「しなくていい」

 すぐに返ってきた言葉は、驚くほどやさしかった。

「少なくとも、俺の前ではしなくていい」

 小春の喉が、きゅっと詰まる。

「……なんで、そんなこと言うの」

「言うだろ」

 蓮の声は少しだけ苦しそうだった。

「好きなやつが、無理してたら」

 時間が止まった。

 小春の思考が、そこで完全に止まる。

 今。
 今、なんて言ったの。

「……え」

 ようやく出た声は、ひどく小さい。

 蓮も、自分で言ってしまったことに気づいたのか、ぴたりと動きを止めた。

 静寂。

 舞台の上の空気が、張りつめる。

 小春は恐る恐る顔を上げる。
 近すぎる距離。
 蓮の整った顔が、信じられないくらい近くにある。

 その耳が、少し赤い。

「蓮くん、今」

「……忘れろ」

「無理だよ!」

 反射みたいに返すと、蓮が目を閉じて小さく息を吐いた。

「言うつもりじゃなかった」

「でも言ったよね」

「言った」

「好きって」

「……言った」

 認められてしまって、今度は小春のほうが息をのむ。

 胸が苦しいくらい跳ねている。
 うれしい。びっくりする。恥ずかしい。全部いっぺんに来て、どうしたらいいかわからない。

「わたし」

「返事はいらない」
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