落ちこぼれ芸能科ですが、演技の天才ヒロインが舞台で全員勝たせます。
蓮はすぐに言った。

「今は」

「え」

「今、無理に答えさせたくない」

 その言葉はやさしいのに、どこか切ない。

「おまえは今、舞台のことで手いっぱいだ」

「……」

「だから、これは俺の勝手な告白でいい」

 小春は胸がいっぱいになって、うまく息ができなかった。

 こんなときまで、この人は自分のことよりわたしを優先するんだ。

「でも」

 小春は勇気を出して、蓮の制服を少しだけつかむ。

「でも、言わせて」

 蓮が黙って目を向ける。

「わたし、すごくうれしい」

「……」

「蓮くんにそう思ってもらえて、すごくうれしい」

 それは今の本音だった。

 まだ自分の気持ちを、恋だとはっきり言い切れない。
 でも、蓮が特別になり始めていることだけは、もうわかっている。

「だから」

 小春はまっすぐ蓮を見た。

「ちゃんと考えたい」

 蓮の目がわずかに揺れる。

「ごまかしたくないの」

「……ああ」

「蓮くんの気持ち、ちゃんと受けとめたい」

 しばらくして、蓮は静かにうなずいた。

「それでいい」

「待っててくれる?」

「待つ」

 迷いのない答えだった。

 その一言だけで、また胸が熱くなる。

「でも」

 蓮の目が少しだけ細くなる。

「だからといって、無茶をしていい理由にはならない」

「あ」

「今後、ひとりで抱えこむな」

「はい」

「一ノ瀬に揺さぶられても、ひとりで何とかしようとするな」

「はい」

「何かあったら俺に言え」

「……はい」

 素直に返事をすると、蓮はようやく少しだけ表情をゆるめた。

 それを見て、小春もふっと笑う。

「なんだ」

「ううん」

「何だよ」

「蓮くん、やっぱり優しいなって」

「またそれか」

「だってほんとだもん」

 小春が笑うと、蓮は困ったみたいに目をそらす。

 でも、さっきよりずっとやわらかい空気だった。

 そのとき、舞台袖のほうからごそっと音がした。

 ふたりが同時に振り向く。

「……」

「……」

 そこには、カーテンの影から半分だけ顔を出した桃園えると、白峰奏斗と、黒宮レイナがいた。

 沈黙。

「えっと」

 えるがにこっと笑う。

「ごめん、帰ったふりしてた」

「桃園」

 蓮の声が一気に低くなる。

「ひっ」

「ちょ、えるが気になるって言うから」

 白峰くんがあわてて言い訳する。

「私は止めた」

 レイナが即座に距離を取る。

「いや止めてなかったでしょ!?」

「ちょっと静かにして」

 えるがきらきらした目で小声を弾ませる。

「というか今の」

「言うな」

 蓮が即座に止める。

 でももう遅い。

「告白だったよね!?」

「うわあああ!」

 小春の顔が一気に熱くなる。

 白峰くんが両手で顔を覆う。

「最悪のタイミングで聞いた……!」

「最悪って顔してるわりに、ちょっと赤いじゃん」

 レイナが冷静につっこむ。

「うるさい!」

 えるは両手を胸の前で組んで、完全に興奮していた。
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