落ちこぼれ芸能科ですが、演技の天才ヒロインが舞台で全員勝たせます。
「やっぱほんとだったんだ……」

「聞き間違いじゃなかったんだな」

「うわ、朝から心臓もたない」

 ひそひそ声が広がって、小春はその場にしゃがみこみたくなる。

「ち、違うの!」

「何が違うの?」

「えっと、その」

 違わない。
 告白されたのは事実だ。
 でもこうして朝の教室で言葉にされると、急に現実味がすごくなってしまう。

「おはよう」

 低く落ちた声に、教室の空気がぴたりと止まる。

 振り向かなくてもわかる。
 桜井蓮だ。

 小春の心臓が一気に跳ねる。

 教室の後ろの扉から入ってきた蓮は、いつも通りの無表情で席へ向かう。
 でも、その「いつも通り」が今は逆にずるい。

 こっちは全然いつも通りじゃないのに。

「……お、おはよう」

 小春がぎこちなく声をかけると、蓮の足が一瞬だけ止まる。

「おはよう」

 それだけ。

 たったそれだけなのに、声が耳に触れた瞬間、昨日の言葉が一気によみがえってくる。

 好きなやつが、無理してたら。

「……っ」

 だめだ。
 思い出しただけで顔が熱い。

「小春ちゃん、真っ赤」

「言わないで!」

「桜井くんもちょっと耳赤くない?」

「見ないであげなよ!」

 えるの楽しそうな声に、クラスのあちこちから笑いがこぼれる。

 蓮は席に着くと、机に肘をついて目を伏せた。

「……朝からうるさい」

「だって気になるし」

 えるが悪びれもせず言う。

「昨日あんなの見せられたら、そりゃみんな気になるよ」

「あんなのって何」

 小春があわてて言うと、えるはにっこり笑った。

「青春のど真ん中」

「やめて~……」

 机に突っ伏したくなる。
 いやもういっそ消えたい。

 そのとき、白峰奏斗が気まずそうに後ろから声をかけてきた。

「白雪さん」

「な、なに?」

「その……昨日のこと」

「う、うん」

「おめでとう……でいいのか?」

「え」

 小春が目を瞬くと、白峰くんは耳を赤くしながら視線をそらした。

「いや、違ったら悪いけど」

「ち、違わないけど、まだその、返事とかは」

「してないのか」

「してないの!」

 なぜかそこを強調してしまう。

 すると、少し離れた席から黒宮レイナがあきれたように口を開いた。

「朝から何の報告会なの」

「だって重大事件だよ?」

 えるが当然みたいに返す。

「昨日まで嫉妬っぽい空気出してた桜井くんが、ついに告白したんだよ?」

「桃園」

 低い声が飛ぶ。

 えるがぴっと背筋を伸ばす。

「は、はい!」

「黙れ」

「はーい!」

 元気な返事のわりに、全然こたえていない顔だ。

 そんなやりとりに、また教室がくすくす笑いで揺れる。
< 35 / 44 >

この作品をシェア

pagetop