落ちこぼれ芸能科ですが、演技の天才ヒロインが舞台で全員勝たせます。

第九章

午後の稽古が始まる少し前。

 小春が台本を抱えて廊下を歩いていると、窓の外からやわらかな風が吹きこんできた。

 昼休みのあのやりとりを思い出して、まだ少しだけ頬が熱い。

 蓮くん、あんなことさらっと言うんだ。
 いや、さらっとではなかったかもしれないけど。

 でも。

 違わないだろ。

 あの短い一言を思い返すだけで、胸がふわっと甘くなる。

「……浮かれてる場合じゃないのに」

 小さくつぶやいて、ぺちっと自分の頬を軽く叩く。

 今日は稽古。
 ちゃんと切り替えないと。

「へえ」

 不意に、前から声が落ちてきた。

「ずいぶん楽しそうね」

 小春が顔を上げる。

 廊下の先に立っていたのは、香坂ルミナだった。
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