落ちこぼれ芸能科ですが、演技の天才ヒロインが舞台で全員勝たせます。
怒りだけじゃない。
 たぶん、悔しさ。
 それから、少しだけ焦り。

「でも、忠告はしたわ」

 ルミナは踵を返す。

「カイは、興味を持った相手にはとことん踏みこむ人よ」

「……」

「気をつけて」

 それだけ言って、ルミナは去っていく。

 小春はその背中をしばらく見つめたまま動けなかった。

「……なんか、すごかった」

「誰が?」

「ひゃっ!」

 すぐ真後ろから声がして、小春は飛び上がる。

 振り向くと、そこにいたのは蓮だった。

「れ、蓮くん!?」

「そんなに驚くな」

「だって急に後ろにいるから!」

「悪い」

 そう言いながらも、蓮の目はあまり笑っていなかった。

「香坂に何を言われた」

「えっと……」

「聞こえてた」

「あ」

 じゃあごまかせない。

 小春は少しためらってから、正直に言った。

「一ノ瀬くんに近づくなって」

 その瞬間、蓮の眉がぴくりと動いた。

「……なるほど」

「香坂さん、一ノ瀬くんのこと好きなんだって」

「知ってる」

「知ってるんだ」

「あいつ、わかりやすいからな」

 そう言ったあと、蓮は少しだけ目を細める。

「それで、おまえは何て返した」

「舞台に立つこととは別だって言った」

「そうか」

 短い返事。
 でも、その声には少しだけ安心したような色が混じっていた。
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