落ちこぼれ芸能科ですが、演技の天才ヒロインが舞台で全員勝たせます。

第二章

特訓開始のひと言のあと、最初に空気を壊したのは、教室のいちばん後ろにいた男子だった。

「……俺、やっぱ無理」

 低い声だった。
 さっきまで笑っていた空気が、そこで少し止まる。

 白雪小春はその声のしたほうを見る。
 壁にもたれるように立っていたのは、背の高い男子生徒だった。制服のネクタイはゆるく、前髪が少し長い。目立つのを避けるように立っているのに、不思議と存在感がある。

「無理って、何が?」

「全部。演技も、人前に立つのも」

「でも、さっきちゃんと返事してくれたよね」

「返事くらいするだろ」

「うん。その声、すごくいい」

 男子がぴたりと黙る。

「……は?」

「低くてやわらかいのに、ちゃんと通る声。後ろまで届く声だよ」

「急に何」

「才能の話」

 小春はまっすぐに彼を見る。
 自信がない人は、褒められてもすぐには信じない。だからこそ、適当に言っちゃだめだ。

「名前、なんていうの?」

「白峰奏斗」 
「奏斗くんね。ちょっと前に出て」

「やだ」

「即答だ」

「当たり前だろ」

 教室に小さな笑いが起きる。
 でも、小春は引かなかった。

「じゃあここでいいから、一言だけ読んでみて」

「読まない」  

「お願い」
 
「……」

「お願い、奏斗くん」

 少しだけ首をかしげてみせると、白峰くんの肩がぴくっと揺れた。
 よし。あとひと押し。
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