その青を描く ③
 柚月が辞めてから数ヶ月後くらいに、戸田が店にやって来た。俺はすぐに察したけど、取り敢えずは席へ通した。

「今日は可愛い新人がいますが、お付けしましょうか」

「いらない」

『ん?ちゃんと言えんじゃん』少しあきれたけど、意思は固く聞こえた。

「かしこまりました。ごゆっくりどうぞ」

 どうするのかと見てたけど、相変わらず仏頂面で煙草吸って、一杯だけ酒を飲んでから、テーブルの上を軽く片付けて席を立った。

 会計時には綺麗に札を揃え、カウンターの上の皿に置いて、そこで口を開いた。

「釣りは要らない」

 そういう客は珍しくないけど、他とは違って、随分と羽振りがいいみたいだ。

「お気遣いありがとうございます。こちらで適切に使用いたします。またのお越しをお待ちしております」

 戸田は俺を一瞥し、財布をポケットに入れて、気だるそうに店を出ていった。羽振りのよさもそうだけど、財布も上質な革で誂えたものに見えた。その割に服装はカジュアルで、適当に着てるような出で立ちだ。でも、なぜか様になっていて、職業はデザイン関係か、それに近いものだと思ってた。

 その後も戸田は不定期に店に来て、判で押したように、同じ行動をしていた。でも、ある日、いつものように席へ通したら、口元に血が滲んでいた。

 ついに手を出したかと思ったけど、他に傷は見当たらないから、事務室から救急箱を手に席へ向かった。

「申し訳ございませんが、他のお客様の目に触れますので、こちらお使いください」

 その時の戸田の目は、一瞬だったけど、鋭くて、思わず目を背けるほどだった。よっぽど腹が立つことがあって、誰かに喧嘩を吹っ掛けたなと考え、救急箱から使いそうなものをテーブルの上へ置いた。

 でも、戸田は軽く口元を拭いただけで、一気に酒を呷ってから、テーブルの上へ札を二枚置いて、急ぎ足で出ていった。

 それから少しして、戸田は若い男を引き連れてやってきた。そう言えば、若い男のほうは以前に、店の中で客と揉めてたやつだと思い出した。どっちも喧嘩っ早いのかと、嫌になったけど、面倒事が起きないように、注意深く席へ通した。

「今日はいかがなさいますか」俺が聞くと、戸田は軽く顔で隣を示して「……女の子つけてやって」と言ってから、深い溜息を吐いて、煙草をくわえた。

「かしこまりました。当店で人気の子をお付けします。お待ちくださいませ」

 妙に格好つけてるように見えたから、嫌がらせのように単価の高いキャストを付けた。そうしたところで、戸田は何も口にしないだろうと踏んだ。その予想は当たったけど、予想を上回る金額を支払われて、俺のほうはお手上げ状態だった。
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