君のいない明日を、今日。

通学路?

家を出て、いつもの通学路を歩く。

学校へ向かう途中に、小さな神社がある。

私は毎朝、そこに立ち寄っていた。

もう、何度目だろう。

同じ道。

同じ景色。

同じ朝。

それでも今日は、今までとは少しだけ違う気がした。

鳥居をくぐり、賽銭箱の前で足を止める。

鈴を鳴らして、そっと手を合わせた。

「……今度こそは、どうか……」

目を閉じたまま、しばらく祈る。

こうきを助けられますように。

今日を、ちゃんと終えられますように。

そして――

この繰り返しが、終わりますように。

小さく息を吐き、神社をあとにした。

少し歩いたところで、前から見慣れた人影が見えた。

「あ、田中さん」

町内会長の田中さんだった。

「おはようございます」

「おう、おはよう。今日も早いねぇ」

いつものように挨拶を交わす。

そのまま通り過ぎようとしたときだった。

「あっ、田中さん」

これだけは忘れちゃいけない。

「薬、飲んだ?」

「……あ!」

田中さんが目を丸くする。

「忘れてた」

「もう、いつも忘れるんだから」

思わず笑ってしまう。

……一周目のとき、田中さんは薬を飲みわすれたまま出かけて、途中で倒れた。

大事には至らなかった。

それでも、あのとき見た田中さんの顔は、今でも覚えている。

だから今回も、倒れる前に止める。

「ちゃんと飲んでね」

「いやぁ、忘れたことなんてないんだけどなぁ」

田中さんは頭を掻きながら、困ったように笑った。

「最近、ちょっとボケてきたのかなぁ」

「もう、気をつけてよー」

「ははは。気をつけるよ」

田中さんが薬を飲むのを確認してから、私は手を振った。

「じゃあ、またね」

「おう、気をつけてな」

田中さんと別れて、また歩き出す。

ひとつ。

前のループとは違う。

胸の奥で、そう思った。

しばらくすると、今度は前からりほが走ってきた。

「おはよー!」

「おはよう。……って、どうしたの? そんなに急いで」

「朝、慌てて家を出てきちゃって……」

りほは息を切らしながら、困ったように笑った。

「大丈夫?」

「うん、大丈夫!」

私は、りほの鞄を見る。

――そうだ。

今日、体育がある。

そして...

「体操服! 持ってきた?」

「えぇ? 多分……」

りほは慌てて鞄を漁り始める。

そして――

「ない……!!どうしよう……」

やっぱり。

思わず小さく息を吐く。

何度も見てきた光景。

何度も繰り返してきた会話。

でも、今日は違う。

「今ならまだ間に合うよ。急いで取りに帰りな?」

「でも、もう時間が……」

「大丈夫。先生には私から言っておくから」

「ほんと!?」

「うん。急いで!」

「ありがと! じゃあ、行ってくる!」

りほは来た道を走って戻っていった。

私はその背中を見送りながら、時計を見る。

うん。

まだ、間に合う。

前のループでも、同じ時間だった。

ちゃんと間に合う。

私は小さく笑って、また学校へ向かって歩き出した。

前回までと同じ出来事を、なぞっていく。

田中さんは、もう薬を飲んだ。

りほも、体操服を取りに帰った。

小さなことかもしれない。

それでも。

今まで変えられなかったものが、少しずつ変わっている。

昨日、初めて雨が降らなかった。

そして今日も。

何かが、変わり始めている。

私は鞄の中に入れた折り畳み傘を、そっと握った。

――お願い。

このまま全部、変わって。

そして最後に。

こうきの運命も――。
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