君のいない明日を、今日。
ルーティーン?
ピピピピ……。
携帯のアラームが、朝七時を知らせる。
「ん……」
眠たい目をこすりながらベッドから起き上がり、乱れた布団をいつものように整える。
階段を下りてリビングへ向かうと、お母さんはもう出かけたあとだった。
テーブルの上には、私のお弁当だけがぽつんと置かれている。
「……いってらっしゃい」
誰もいない部屋に、なんとなく呟いた。
返事はない。
いつものことだった。
洗面所で顔を洗い、制服に着替える。
髪を整えて、トースターに食パンを入れた。
チン、と音がして、焼き上がったパンにチョコクリームを塗る。
テレビをつけると、朝のニュースが流れていた。
『本日は一日を通して快晴となるでしょう』
画面の隅に表示された天気予報を、ぼんやり眺める。
「……快晴、か」
小さく呟く。
この言葉を聞くのも、もう何度目だろう。
最初の日もそうだった。
朝の天気予報は、今日と同じだった。
一日を通して快晴。
雨なんて、降るはずがない。
――でも。
夕方になると、突然、通り雨が降った。
ほんの短い時間だった。
それでも、確かに降った。
そして、それを境に。
私は同じ一日を、何度も繰り返すことになった。
二回目も。
三回目も。
その次も。
何度繰り返しても、夕方には雨が降った。
だから私は、いつからか折り畳み傘を持ち歩くようになった。
どうせ、今日も降る。
そう思っていた。
……昨日までは。
ふと、窓の外を見る。
青い空。
雲ひとつない。
昨日も、こんな空だった。
そして――
昨日は、雨が降らなかった。
初めてだった。
いつもなら降るはずの時間になっても、空は晴れたままだった。
待っても。
待っても。
雨は降らなかった。
あの日からずっと繰り返してきた「決まった一日」が、初めて変わった。
それが、何を意味するのかは分からない。
ただ、胸の奥に残った感覚だけは消えなかった。
――何かが変わった。
いい方向に?
それとも……。
「……ねぇ」
誰に言うでもなく、窓の外へ視線を向ける。
「これって、いい方向に変わったんだよね?」
答えてくれる人はいない。
ふと時計を見る。
「……あと十五分」
思ったより時間がない。
少しだけ焦りながら、椅子に座った。
「いただきます」
小さく呟いて、パンをかじる。
一人で食べる朝ごはんにも、もう慣れていた。
「……ごちそうさま」
食べ終わった食器を洗い、鞄の中を確認する。
教科書。
筆箱。
お弁当。
スマホ。
体操服。
忘れ物はない。
玄関へ向かい、靴を履こうとしたときだった。
視界の端に、何かがちらりと入った。
――折り畳み傘。
玄関の隅に置かれた、見慣れた傘。
今日は快晴。
昨日も、雨は降らなかった。
それでも。
「……なんとなく、ね」
私は折り畳み傘を手に取った。
これまで、何度も持っていった。
今日も、持っていく。
たとえもう、雨が降らないのだとしても。
たとえ昨日の変化が、このループの終わりを意味しているのだとしても。
何となく。
まだ、手放せなかった。
鞄の中に折り畳み傘を入れる。
その瞬間、不思議な感覚がした。
今日が、今までと同じ一日になる気がしない。
理由なんて分からない。
ただ――
これが最後かもしれない。
そんな気がした。
七回目。
今までと同じようで、どこか違う朝。
もし本当に、これが最後なら。
私は――
絶対に、こうきを助ける。
そう心の中で呟いて、私は鞄を肩にかけた。
そして、誰もいない家を振り返る。
「行ってきます」
返事はない。
それでも私は、いつものようにドアを開けた。
鞄の中には、折り畳み傘。
そして、昨日初めて生まれた、小さな希望。
――今度こそ。
今度こそ、何かを変えられる気がした。
携帯のアラームが、朝七時を知らせる。
「ん……」
眠たい目をこすりながらベッドから起き上がり、乱れた布団をいつものように整える。
階段を下りてリビングへ向かうと、お母さんはもう出かけたあとだった。
テーブルの上には、私のお弁当だけがぽつんと置かれている。
「……いってらっしゃい」
誰もいない部屋に、なんとなく呟いた。
返事はない。
いつものことだった。
洗面所で顔を洗い、制服に着替える。
髪を整えて、トースターに食パンを入れた。
チン、と音がして、焼き上がったパンにチョコクリームを塗る。
テレビをつけると、朝のニュースが流れていた。
『本日は一日を通して快晴となるでしょう』
画面の隅に表示された天気予報を、ぼんやり眺める。
「……快晴、か」
小さく呟く。
この言葉を聞くのも、もう何度目だろう。
最初の日もそうだった。
朝の天気予報は、今日と同じだった。
一日を通して快晴。
雨なんて、降るはずがない。
――でも。
夕方になると、突然、通り雨が降った。
ほんの短い時間だった。
それでも、確かに降った。
そして、それを境に。
私は同じ一日を、何度も繰り返すことになった。
二回目も。
三回目も。
その次も。
何度繰り返しても、夕方には雨が降った。
だから私は、いつからか折り畳み傘を持ち歩くようになった。
どうせ、今日も降る。
そう思っていた。
……昨日までは。
ふと、窓の外を見る。
青い空。
雲ひとつない。
昨日も、こんな空だった。
そして――
昨日は、雨が降らなかった。
初めてだった。
いつもなら降るはずの時間になっても、空は晴れたままだった。
待っても。
待っても。
雨は降らなかった。
あの日からずっと繰り返してきた「決まった一日」が、初めて変わった。
それが、何を意味するのかは分からない。
ただ、胸の奥に残った感覚だけは消えなかった。
――何かが変わった。
いい方向に?
それとも……。
「……ねぇ」
誰に言うでもなく、窓の外へ視線を向ける。
「これって、いい方向に変わったんだよね?」
答えてくれる人はいない。
ふと時計を見る。
「……あと十五分」
思ったより時間がない。
少しだけ焦りながら、椅子に座った。
「いただきます」
小さく呟いて、パンをかじる。
一人で食べる朝ごはんにも、もう慣れていた。
「……ごちそうさま」
食べ終わった食器を洗い、鞄の中を確認する。
教科書。
筆箱。
お弁当。
スマホ。
体操服。
忘れ物はない。
玄関へ向かい、靴を履こうとしたときだった。
視界の端に、何かがちらりと入った。
――折り畳み傘。
玄関の隅に置かれた、見慣れた傘。
今日は快晴。
昨日も、雨は降らなかった。
それでも。
「……なんとなく、ね」
私は折り畳み傘を手に取った。
これまで、何度も持っていった。
今日も、持っていく。
たとえもう、雨が降らないのだとしても。
たとえ昨日の変化が、このループの終わりを意味しているのだとしても。
何となく。
まだ、手放せなかった。
鞄の中に折り畳み傘を入れる。
その瞬間、不思議な感覚がした。
今日が、今までと同じ一日になる気がしない。
理由なんて分からない。
ただ――
これが最後かもしれない。
そんな気がした。
七回目。
今までと同じようで、どこか違う朝。
もし本当に、これが最後なら。
私は――
絶対に、こうきを助ける。
そう心の中で呟いて、私は鞄を肩にかけた。
そして、誰もいない家を振り返る。
「行ってきます」
返事はない。
それでも私は、いつものようにドアを開けた。
鞄の中には、折り畳み傘。
そして、昨日初めて生まれた、小さな希望。
――今度こそ。
今度こそ、何かを変えられる気がした。