君のいない明日を、今日。

繰り返す。

――愛

ここは……どこ?

身体が、宙に浮いている。

足元には何もない。

手を伸ばしても、何も掴めない。

「……私……火事で……」

そう呟いた瞬間。

目の前が、ぼんやりと揺れた。

まるで、遠くから映像を見ているみたいに。

そこに――

こうきがいた。

「……こうき?」

見覚えのある場所。

学校の屋上。

こうきが、ひとりで立っている。

「こうき……?」

何をしてるの?

どうして、そこにいるの?

声をかける。

でも。

届かない。

こうきは、古びたノートを強く握りしめていた。

何かを呟いている。

口が動いているのは分かる。

でも、その声は聞こえない。

「待って……」

そして。

こうきが、一歩。

前へ進んだ。

「……こうき!?」

必死に手を伸ばす。

捕まえなきゃ。

止めなきゃ。

お願い。

行かないで。

「こうき!!」

――届かない。

指先は、こうきの身体をすり抜けた。

「……え?」

自分の手を見る。

透けている。

腕も。

身体も。

全部。

「……私……死んだの……?」

その瞬間。

視界が、真っ白になった。

そして。

頭の中に、知らないはずの光景が流れ込んできた。

こうきが笑っている。

こうきが泣いている。

こうきが何かを書いている。

何度も。

何度も。

何度も。

同じ日付。

同じ時間。

同じ場所。

そして――

私が死んでいる。

通り魔。

転落。

事故。

そして、火事。

何度も。

何度も。

何度も。

私が死ぬ。

そのたびに。

こうきも――

「……死んでる……?」

そしてまた。

時間が戻る。

こうきが目を覚ます。

また私と出会う。

また私を助けようとする。

また。

私が死ぬ。

「……繰り返してる……?」

息が詰まる。

今までずっと。

私は、自分がループしていると思っていた。

でも――

違う。

「……こうきが……?」

頭の中に、私が知っている二日間が浮かぶ。

五月九日。

五月十日。

私が何度も繰り返してきた二日間。

そして。

私は、いつも五月十日に死んでいる。

「……待って」

五月十日。

必ず。

どんな結末になっても。

私は、この日に死ぬ。

じゃあ。

私が繰り返していたのは――

「……この二日間だけ……?」

そうだ。

私には、それより前にはループしてない。

でも。

こうきは――

もっと前から。

何度も。

何度も。

私を助けようとしていた。

「……そういうこと……?」

胸の奥が、大きく震える。

私がループしていたんじゃない。

こうきが。

私を助けるために。

ずっと、繰り返していた。

「……あぁ……」

声が震える。

「そうだったんだ……」

あのノート。

あの涙。

あの別れ。

全部。

私を嫌いになったわけじゃなかった。

私から離れたかったわけでもなかった。

私を――

生かすためだった。

「こうき……」

何度も。

何度も。

私が死ぬたびに。

こうきは、自分も死んで。

また戻って。

また私を救おうとして。

それを、繰り返していた。

「……私を助けるために……」

胸が苦しくなる。

「……ずっと……?」

その瞬間。

頭の奥に、鋭い痛みが走った。

「――うっ……!」

思わず頭を抱える。

痛い。

何これ。

「……やだ……」

頭の中にあった何かが。

ひとつずつ。

抜け落ちていく。

待って。

やめて。

お願い。

「……忘れたくない……」

こうきの顔。

こうきの声。

一緒に帰った道。

お弁当を分け合ったこと。

くだらないことで笑ったこと。

北海道に行こうって話したこと。

全部。

全部、大切なのに。

「待って……!」

記憶が、消えていく。

指の隙間から砂が落ちていくみたいに。

掴もうとしても。

もう、掴めない。

「こうき……!」

名前を呼ぶ。

お願い。

忘れたくない。

あなたと過ごした時間を。

あなたが私のために繰り返してくれたことを。

全部。

全部、覚えていたい。

「……こうき……」

もう一度。

名前を呼ぶ。

でも。

その声さえ。

少しずつ遠くなっていった。

――お願い。

忘れたくない。

こうきとの記憶が。

思い出が。

大切だった時間が。

ひとつずつ。

私の中から消えていった。
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