君のいない明日を、今日。
運命
――こうき
ここまで、二年。
長かった。
やっと。
やっと、この日が来た。
「……頼むから」
空を見上げる。
「神様がいるなら……お願いだ」
声が震える。
「愛を……」
一度、息を吸う。
「愛を助けてくれ」
俺と愛は、高校で出会った。
だから。
俺は、愛とは違う高校を選んだ。
同じ学校に行けば。
きっと、また出会ってしまう。
俺が愛の人生に関わってしまう。
だから。
今の俺は、愛のことをまるっきり知らない。
愛も。
俺のことなんて知らない。
顔も。
名前も。
知らない。
会ったこともない。
まだ。
俺は、愛の人生の登場人物ですらない。
それでいい。
それがいい。
そう決めたはずなのに。
――明日が、怖い。
怖くてたまらない。
もし。
それでも何かが変わってしまったら。
もし。
また愛が死んだら。
そんなことばかり考えていた。
今日一日。
授業なんて、何も頭に入らなかった。
気づけば。
もう、学校は終わっていた。
鞄を持って、帰路につく。
しばらく歩いたところで。
ぽつ。
頬に雨粒が落ちた。
「……雨?」
次の瞬間。
ざあっと雨が降り出した。
通り雨。
俺は近くにあった神社へ駆け込んだ。
雨宿りをしようと、屋根の下へ入る。
「……」
雨の音をぼんやり聞いていると。
遠くから。
笑い声が聞こえた。
「ちょっと雨宿りしてこ!」
「そうだね!」
「もうびしょびしょ!!」
「さいあくー!」
「ほんとにね!」
――その声。
聞き間違えるはずがなかった。
「……」
俺は咄嗟に神社の裏へ回った。
身を隠す。
見つからないように。
でも。
聞こえてくる声だけで分かる。
りほ。
そして――
愛。
「……」
二年ぶりだった。
ゆっくりと。
ほんの少しだけ、顔を出す。
そこに。
愛がいた。
二年ぶりに見た愛は。
何も変わっていなかった。
濡れた髪。
屈託なく笑う顔。
りほと楽しそうに話している。
「……愛」
名前を呼ぶことはできなかった。
呼んだら。
きっと。
全部が戻ってしまう気がした。
胸の奥が、ぎゅっと締めつけられる。
視界が滲んだ。
「……っ」
涙が。
止まらなかった。
二年間。
ずっと。
会いたかった。
でも。
会ってはいけないと思っていた。
だから。
ただ、そこにいる愛を見ていることしかできない。
声を殺す。
誰にも気づかれないように。
必死に。
泣いた。
幸い。
雨の音が、俺の嗚咽を隠してくれていた。
「……あ!」
愛の声がする。
「晴れてきた!!」
雨が少しずつ弱くなっていく。
「にじだよ!!!」
「え! すごい!!!」
二人が空を見上げる。
その声が。
笑い声が。
少しずつ遠ざかっていく。
「……」
俺は。
しばらく、その場から動けなかった。
愛が生きている。
笑っている。
それだけで。
よかった。
それだけで。
十分だった。
やがて。
空がすっかり暗くなった頃。
俺はようやく重い腰を上げた。
そして。
一人で家へ帰った。
――
「ちょっと、あんた遅いじゃない!」
玄関を開けた瞬間。
母さんの声が飛んでくる。
「冷えたでしょう」
「今日は鍋だから!」
「早くお風呂入ってきなさい!」
「……うん」
それだけ短く返して。
俺は自分の部屋へ戻った。
鞄を置く。
制服のまま。
ベッドに倒れ込む。
頭の中に浮かぶのは。
さっき見た愛の笑顔。
「……生きてた」
小さく呟く。
それだけ確認できれば。
もういい。
そう思った。
安心したからなのか。
二年間張りつめていたものが切れたからなのか。
俺はそのまま。
気絶したように眠りに落ちた。
ここまで、二年。
長かった。
やっと。
やっと、この日が来た。
「……頼むから」
空を見上げる。
「神様がいるなら……お願いだ」
声が震える。
「愛を……」
一度、息を吸う。
「愛を助けてくれ」
俺と愛は、高校で出会った。
だから。
俺は、愛とは違う高校を選んだ。
同じ学校に行けば。
きっと、また出会ってしまう。
俺が愛の人生に関わってしまう。
だから。
今の俺は、愛のことをまるっきり知らない。
愛も。
俺のことなんて知らない。
顔も。
名前も。
知らない。
会ったこともない。
まだ。
俺は、愛の人生の登場人物ですらない。
それでいい。
それがいい。
そう決めたはずなのに。
――明日が、怖い。
怖くてたまらない。
もし。
それでも何かが変わってしまったら。
もし。
また愛が死んだら。
そんなことばかり考えていた。
今日一日。
授業なんて、何も頭に入らなかった。
気づけば。
もう、学校は終わっていた。
鞄を持って、帰路につく。
しばらく歩いたところで。
ぽつ。
頬に雨粒が落ちた。
「……雨?」
次の瞬間。
ざあっと雨が降り出した。
通り雨。
俺は近くにあった神社へ駆け込んだ。
雨宿りをしようと、屋根の下へ入る。
「……」
雨の音をぼんやり聞いていると。
遠くから。
笑い声が聞こえた。
「ちょっと雨宿りしてこ!」
「そうだね!」
「もうびしょびしょ!!」
「さいあくー!」
「ほんとにね!」
――その声。
聞き間違えるはずがなかった。
「……」
俺は咄嗟に神社の裏へ回った。
身を隠す。
見つからないように。
でも。
聞こえてくる声だけで分かる。
りほ。
そして――
愛。
「……」
二年ぶりだった。
ゆっくりと。
ほんの少しだけ、顔を出す。
そこに。
愛がいた。
二年ぶりに見た愛は。
何も変わっていなかった。
濡れた髪。
屈託なく笑う顔。
りほと楽しそうに話している。
「……愛」
名前を呼ぶことはできなかった。
呼んだら。
きっと。
全部が戻ってしまう気がした。
胸の奥が、ぎゅっと締めつけられる。
視界が滲んだ。
「……っ」
涙が。
止まらなかった。
二年間。
ずっと。
会いたかった。
でも。
会ってはいけないと思っていた。
だから。
ただ、そこにいる愛を見ていることしかできない。
声を殺す。
誰にも気づかれないように。
必死に。
泣いた。
幸い。
雨の音が、俺の嗚咽を隠してくれていた。
「……あ!」
愛の声がする。
「晴れてきた!!」
雨が少しずつ弱くなっていく。
「にじだよ!!!」
「え! すごい!!!」
二人が空を見上げる。
その声が。
笑い声が。
少しずつ遠ざかっていく。
「……」
俺は。
しばらく、その場から動けなかった。
愛が生きている。
笑っている。
それだけで。
よかった。
それだけで。
十分だった。
やがて。
空がすっかり暗くなった頃。
俺はようやく重い腰を上げた。
そして。
一人で家へ帰った。
――
「ちょっと、あんた遅いじゃない!」
玄関を開けた瞬間。
母さんの声が飛んでくる。
「冷えたでしょう」
「今日は鍋だから!」
「早くお風呂入ってきなさい!」
「……うん」
それだけ短く返して。
俺は自分の部屋へ戻った。
鞄を置く。
制服のまま。
ベッドに倒れ込む。
頭の中に浮かぶのは。
さっき見た愛の笑顔。
「……生きてた」
小さく呟く。
それだけ確認できれば。
もういい。
そう思った。
安心したからなのか。
二年間張りつめていたものが切れたからなのか。
俺はそのまま。
気絶したように眠りに落ちた。