魔法より、君に恋をする。
 放課後。

 カイルが連れてきたのは、学院の敷地内にある小さな温室だった。

「……甘いものは?」

「中だ」

「ここで?」

「ああ」

 扉を開ける。

 温かい空気と、花の香り。

 温室の奥に、小さな木製のテーブルが置かれていた。

 その上には紙袋が一つ。

「先に買ったの?」

「ああ」

「一緒に選ばないんだ」

「嫌だったか」

「嫌じゃない。でも何買ったの?」

「見ろ」

 リリアは紙袋を開けた。

 中には、小さな焼き菓子がいくつか入っている。

 チョコレート。

 ナッツ。

 蜂蜜。

 それから。

「猫」

 猫の形をしたクッキーが一枚。

「……」

 リリアはカイルを見る。

「何だ」

「クロフォード先輩が選んだ?」

「ああ」

「猫」

「見れば分かる」

「可愛い」

「菓子が?」

「先輩が」

「帰るぞ」

「待って」

 立ち上がろうとした腕を掴む。

「冗談」

「お前は最近、俺で遊んでないか」

「ちょっと」

「否定しろ」

「前より話しやすいから」

 カイルが止まる。

 リリアはそのまま椅子に座った。

「最初、本当に怖かった」

「知ってる」

「睨むし」

「睨んでない」

「睨んでた」

「見ていただけだ」

「同じ」

「違う」

「今は分かるけど」

「何が」

「怖い顔してるだけ」

「……褒めてないな」

「優しいのも知ってる」

 カイルは黙った。

「猫にご飯あげるし」

「それは関係ない」

「怪我してたら助けるし」

「普通だ」

「私が迷子だと迎えに来る」

「偶然だ」

「最近、偶然多い」

「……食え」

 猫のクッキーを押しつけられた。

「誤魔化した」

「食え」

「はい」

 一口かじる。

「美味しい」

「そうか」

「先輩も」

「俺はいい」

「甘いもの平気って言った」

「食べないとは言ってない」

「じゃあ食べて」

 チョコレートの焼き菓子を一つ取って渡す。

 カイルは受け取った。

「……」

「何?」

「いや」

 一口食べる。

「美味しい?」

「普通だ」

「それ美味しい時の言い方?」

「普通だ」

「じゃあ私も食べる」

「好きにしろ」

 リリアは同じ種類を取った。

「美味しい」

「そうか」

「先輩も美味しいって言えばいいのに」

「必要ない」

「頑固」

「お前に言われたくない」

 静かな温室に、リリアの笑い声が響いた。
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