魔法より、君に恋をする。
 何も聞こえない。

 観覧席の歓声も。

 水の音も。

 レオンハルトの声も。

 全部。

 リリアは立っていた。

 でも。

 隣に誰もいない。

「……レオン先輩?」

 声を出したはずなのに、自分の声すら聞こえない。

 周囲が暗い。

 さっきまで昼だった。

 なのに空が黒い。

 違う。

 夜ではない。

 空そのものが。

「……」

 顔を上げる。

 そこに。

 月があった。

 真っ黒な月。

 見た瞬間。

 胸が痛んだ。

「っ……」

 息ができない。

 知らない。

 こんなもの。

 見たことがない。

 はずなのに。

 怖い。

 知っている。

 逃げなければ。

 誰かが死ぬ。

 また。

「……また?」

 その言葉だけが、妙にはっきり聞こえた。

 視界が揺れる。

 炎。

 崩れる街。

 血。

 誰かの背中。

 赤い髪。

 黒い髪。

 淡い銀青。

 金色。

 紫。

 手を伸ばす。

 届かない。

 そして。

 自分の胸に。

 刃。

「――っ!」

 リリアは反射的に左胸を押さえた。

『見つけた』

 あの声。

 すぐ後ろ。

 振り返る。

 誰もいない。

『今度こそ』

「誰?」

 返事はない。

『返してもらう』

「何を?」

 黒い月が揺れる。

『――リリアを』

 心臓が止まりそうになった。

「私?」

『違う』

 声が笑った。

『お前じゃない』

 その瞬間。

「リリア!」

 音が戻った。
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