魔法より、君に恋をする。
女子寮へ向かう道を、リリアとカイルは並んで歩いていた。
夕方の風は少し冷たい。
会話はない。
カイルはもともとよく喋る人ではないらしい。
リリアも無理に会話を続ける性格ではないので、沈黙自体は苦ではなかった。
ただ、一つだけ気になっていることがある。
「クロフォード先輩」
「何だ」
「どうして私のこと、そんなに心配するんですか?」
カイルの足がわずかに遅くなった。
「入学してまだ一週間も経ってないですよね」
「ああ」
「なのに、魔晶石が割れた時も今日も、すごく心配してました」
「……」
「私たち、前に会ったことあります?」
同じ質問を、昨日ルシアンにもした。
カイルはすぐには答えなかった。
「ない」
やがて、短く答える。
「ノクス先輩と同じ答え」
「事実だからな」
「二人とも嘘つくの下手ですね」
「……」
「黙った」
カイルが小さく息を吐く。
「お前は怖くないのか」
「何が?」
「俺が何か隠していると思ってるんだろ」
「思ってます」
「なら、普通は警戒する」
リリアは少し考えた。
「でも先輩、私を傷つける気はないですよね」
カイルがこちらを見る。
「それくらいは分かります」
「どうして」
「何となく」
「何となくで人を信用するな」
「じゃあ信用しません」
「極端だな」
「先輩が言ったんじゃないですか」
「……そうだな」
少しだけ、カイルの口元が緩んだ。
笑った。
たぶん。
リリアは立ち止まった。
「今、笑いました?」
「笑ってない」
「笑いましたよね」
「気のせいだ」
「みんな私の『気のせい』を馬鹿にするくせに、自分たちは使うんですね」
「便利だからな」
「ずるい」
カイルは答えなかった。
ただ、今度は先ほどより分かりやすく笑った。
それを見て、リリアも少しだけ笑う。
この人のことも、まだよく分からない。
怖いと思っていたけれど、思っていたより話しやすい。無愛想なのに心配性で、命令するくせに断れば最後には頼んでくる。
それに、笑うと意外と優しい顔をする。
「クロフォード先輩」
「今度は何だ」
「先輩って、思ってたより怖くないですね」
「褒めてるのか?」
「たぶん」
「そうか」
それだけ答えて、カイルは前を向いた。
リリアからは見えなかったが、その横顔にはまだ微かな笑みが残っていた。
女子寮の明かりが見えてくる。
その日のリリアは、黒い魔導書に描かれていた奇妙な術式のことを考えながら歩いていた。
どうして召喚術ではないと思ったのか。どうして中心から伸びる線の数が、あれほど気になったのか。
答えは一つも分からない。
ただ一つ確かなのは、自分の周囲にいる何人かが、自分よりも自分について何かを知っているということだった。
だったら、いつか自分で見つける。
リリアはそう決めて、隣を歩くカイルには何も言わなかった。
夕方の風は少し冷たい。
会話はない。
カイルはもともとよく喋る人ではないらしい。
リリアも無理に会話を続ける性格ではないので、沈黙自体は苦ではなかった。
ただ、一つだけ気になっていることがある。
「クロフォード先輩」
「何だ」
「どうして私のこと、そんなに心配するんですか?」
カイルの足がわずかに遅くなった。
「入学してまだ一週間も経ってないですよね」
「ああ」
「なのに、魔晶石が割れた時も今日も、すごく心配してました」
「……」
「私たち、前に会ったことあります?」
同じ質問を、昨日ルシアンにもした。
カイルはすぐには答えなかった。
「ない」
やがて、短く答える。
「ノクス先輩と同じ答え」
「事実だからな」
「二人とも嘘つくの下手ですね」
「……」
「黙った」
カイルが小さく息を吐く。
「お前は怖くないのか」
「何が?」
「俺が何か隠していると思ってるんだろ」
「思ってます」
「なら、普通は警戒する」
リリアは少し考えた。
「でも先輩、私を傷つける気はないですよね」
カイルがこちらを見る。
「それくらいは分かります」
「どうして」
「何となく」
「何となくで人を信用するな」
「じゃあ信用しません」
「極端だな」
「先輩が言ったんじゃないですか」
「……そうだな」
少しだけ、カイルの口元が緩んだ。
笑った。
たぶん。
リリアは立ち止まった。
「今、笑いました?」
「笑ってない」
「笑いましたよね」
「気のせいだ」
「みんな私の『気のせい』を馬鹿にするくせに、自分たちは使うんですね」
「便利だからな」
「ずるい」
カイルは答えなかった。
ただ、今度は先ほどより分かりやすく笑った。
それを見て、リリアも少しだけ笑う。
この人のことも、まだよく分からない。
怖いと思っていたけれど、思っていたより話しやすい。無愛想なのに心配性で、命令するくせに断れば最後には頼んでくる。
それに、笑うと意外と優しい顔をする。
「クロフォード先輩」
「今度は何だ」
「先輩って、思ってたより怖くないですね」
「褒めてるのか?」
「たぶん」
「そうか」
それだけ答えて、カイルは前を向いた。
リリアからは見えなかったが、その横顔にはまだ微かな笑みが残っていた。
女子寮の明かりが見えてくる。
その日のリリアは、黒い魔導書に描かれていた奇妙な術式のことを考えながら歩いていた。
どうして召喚術ではないと思ったのか。どうして中心から伸びる線の数が、あれほど気になったのか。
答えは一つも分からない。
ただ一つ確かなのは、自分の周囲にいる何人かが、自分よりも自分について何かを知っているということだった。
だったら、いつか自分で見つける。
リリアはそう決めて、隣を歩くカイルには何も言わなかった。