魔法より、君に恋をする。
資料室を出る頃には、外はすっかり夕方になっていた。
「送る」
カイルが言った。
「え?」
「女子寮まで」
「今日は俺が」というような言葉ではなく、ただ短く告げられる。
「一人で帰れます」
「昨日男子寮へ行こうとしたんだろ」
リリアがルシアンを見る。
「言いました?」
「言ってないよ」
「じゃあなんで知ってるんですか」
「噂になってる」
「嘘!」
「本当だ」
カイルは真顔だった。
「一年の首席が男子寮へ入ろうとして会長に止められたって」
「入ろうとしてません!」
「似たようなものだろ」
「違います!」
恥ずかしい。
よりによって、そんなことが噂になっているとは思わなかった。
「……帰る」
「だから送る」
「お願いします」
諦めた。
ルシアンが楽しそうに手を振る。
「気をつけて」
「先輩は来ないんですか?」
「僕はまだ仕事があるからね」
「そうですか。じゃあまた明日」
「うん。また明日」
リリアがカイルと一緒に廊下の向こうへ消えていく。
その背中が見えなくなってから、ルシアンは資料室へ戻った。
机の上に残された黒い魔導書を見下ろす。
しばらくして、静かに表紙へ手を置いた。
「……十二、か」
リリアには何も教えていない。
それでも彼女は数えた。
正確に。
ルシアンは眼鏡を外し、疲れたように目元を押さえた。
「まだ早いよ、リリア」
誰に聞かせるでもなく呟いた声は、静かな資料室へ溶けていった。
「送る」
カイルが言った。
「え?」
「女子寮まで」
「今日は俺が」というような言葉ではなく、ただ短く告げられる。
「一人で帰れます」
「昨日男子寮へ行こうとしたんだろ」
リリアがルシアンを見る。
「言いました?」
「言ってないよ」
「じゃあなんで知ってるんですか」
「噂になってる」
「嘘!」
「本当だ」
カイルは真顔だった。
「一年の首席が男子寮へ入ろうとして会長に止められたって」
「入ろうとしてません!」
「似たようなものだろ」
「違います!」
恥ずかしい。
よりによって、そんなことが噂になっているとは思わなかった。
「……帰る」
「だから送る」
「お願いします」
諦めた。
ルシアンが楽しそうに手を振る。
「気をつけて」
「先輩は来ないんですか?」
「僕はまだ仕事があるからね」
「そうですか。じゃあまた明日」
「うん。また明日」
リリアがカイルと一緒に廊下の向こうへ消えていく。
その背中が見えなくなってから、ルシアンは資料室へ戻った。
机の上に残された黒い魔導書を見下ろす。
しばらくして、静かに表紙へ手を置いた。
「……十二、か」
リリアには何も教えていない。
それでも彼女は数えた。
正確に。
ルシアンは眼鏡を外し、疲れたように目元を押さえた。
「まだ早いよ、リリア」
誰に聞かせるでもなく呟いた声は、静かな資料室へ溶けていった。