魔法より、君に恋をする。
第七章 赤い先輩は機嫌が悪い
アレン・ヴァーミリオンは、どうやらいつも機嫌が悪い。
リリアがそう結論づけたのは、入学して二週間ほど経った頃だった。
廊下で見かければ眉間に皺が寄っている。教師に呼び止められれば面倒そうな顔をし、同級生に肩を組まれれば容赦なく振り払う。女子生徒に声をかけられても愛想よく笑うことはなく、それでも妙に人気があるらしい。
顔が良ければ多少態度が悪くても許されるのだろうか、とリリアは思う。
「……お前、今失礼なこと考えてただろ」
昼休みの渡り廊下。
壁にもたれていたアレンがこちらを睨んでいた。
「なんで分かったんですか?」
「顔に出てる」
「アレン先輩っていつも機嫌悪いなと思ってました」
「本人に言うか、普通」
「聞かれたので」
「聞いてねえよ」
アレンが眉間を押さえる。
以前なら《ヴァーミリオン先輩》と呼んでいたが、本人から「長えからアレンでいい」と言われて以来、リリアは素直に《アレン先輩》と呼んでいる。
そのたびに彼がほんの少し機嫌を良くすることには、まだ気づいていなかった。
「一人か?」
「今は」
「白銀の王子は?」
「セシルなら剣術部の先輩に呼ばれました」
「ノアは?」
「先生に捕まってます」
「へえ」
「何ですか?」
「別に」
アレンが壁から背を離す。
「どこ行くんだ」
「食堂です」
「逆だぞ」
リリアは足を止めた。
来た道を見る。
それから進もうとしていた方向を見る。
「……近道しようと思って」
「嘘つけ」
「学院の構造がおかしい」
「また迷ってんじゃねえか」
「迷ってません」
「じゃあ一人で行け」
「行けます」
即答して歩き出す。
三歩目で腕を掴まれた。
「そっち行くと研究棟だ」
「……」
「食堂行くんじゃねえのか?」
「研究棟経由で」
「何のために?」
「見学」
「意地張んな」
アレンは呆れたように息を吐き、リリアの腕を離した。
「ついて来い」
「先輩も食堂ですか?」
「違う」
「じゃあいいです。一人で行けます」
「行けてねえから言ってんだろ」
「行けます」
「面倒くせえな、お前!」
「アレン先輩に言われたくないです」
「……ほんっと変わんねえ」
リリアの足が止まった。
アレンも止まる。
視線がぶつかった。
「また言いましたね」
「何が」
「変わらないって」
「言ってねえ」
「言いました」
「気のせいだ」
「この前も言いました」
「覚えてねえ」
「私は覚えてます」
「妙なところで記憶力いいな」
「方向感覚もいいです」
「それは絶対嘘だろ」
話を逸らされた。
リリアはじっとアレンを見る。
赤い髪に赤い瞳。
いつも堂々としていて、隠し事などできなさそうな人なのに、自分と初めて会った時から時折おかしな言葉を口にする。
「アレン先輩」
「何だよ」
「私と前に会ったことあります?」
アレンの顔から表情が消えた。
ほんの一瞬だった。
けれどリリアは見逃さなかった。
「……ねえよ」
「今、間がありました」
「うるせえ」
「嘘ですか?」
「違う」
「じゃあ目見て言ってください」
「お前な……」
アレンが苛立ったように髪を掻く。
それから逃げるように歩き出した。
「食堂行くんだろ。さっさと来い」
「誤魔化した」
「置いてくぞ」
「待ってください」
「一人で行けるんじゃなかったのか?」
「それとこれは別です」
「都合いいな!」
結局、リリアはアレンの隣を歩いた。
リリアがそう結論づけたのは、入学して二週間ほど経った頃だった。
廊下で見かければ眉間に皺が寄っている。教師に呼び止められれば面倒そうな顔をし、同級生に肩を組まれれば容赦なく振り払う。女子生徒に声をかけられても愛想よく笑うことはなく、それでも妙に人気があるらしい。
顔が良ければ多少態度が悪くても許されるのだろうか、とリリアは思う。
「……お前、今失礼なこと考えてただろ」
昼休みの渡り廊下。
壁にもたれていたアレンがこちらを睨んでいた。
「なんで分かったんですか?」
「顔に出てる」
「アレン先輩っていつも機嫌悪いなと思ってました」
「本人に言うか、普通」
「聞かれたので」
「聞いてねえよ」
アレンが眉間を押さえる。
以前なら《ヴァーミリオン先輩》と呼んでいたが、本人から「長えからアレンでいい」と言われて以来、リリアは素直に《アレン先輩》と呼んでいる。
そのたびに彼がほんの少し機嫌を良くすることには、まだ気づいていなかった。
「一人か?」
「今は」
「白銀の王子は?」
「セシルなら剣術部の先輩に呼ばれました」
「ノアは?」
「先生に捕まってます」
「へえ」
「何ですか?」
「別に」
アレンが壁から背を離す。
「どこ行くんだ」
「食堂です」
「逆だぞ」
リリアは足を止めた。
来た道を見る。
それから進もうとしていた方向を見る。
「……近道しようと思って」
「嘘つけ」
「学院の構造がおかしい」
「また迷ってんじゃねえか」
「迷ってません」
「じゃあ一人で行け」
「行けます」
即答して歩き出す。
三歩目で腕を掴まれた。
「そっち行くと研究棟だ」
「……」
「食堂行くんじゃねえのか?」
「研究棟経由で」
「何のために?」
「見学」
「意地張んな」
アレンは呆れたように息を吐き、リリアの腕を離した。
「ついて来い」
「先輩も食堂ですか?」
「違う」
「じゃあいいです。一人で行けます」
「行けてねえから言ってんだろ」
「行けます」
「面倒くせえな、お前!」
「アレン先輩に言われたくないです」
「……ほんっと変わんねえ」
リリアの足が止まった。
アレンも止まる。
視線がぶつかった。
「また言いましたね」
「何が」
「変わらないって」
「言ってねえ」
「言いました」
「気のせいだ」
「この前も言いました」
「覚えてねえ」
「私は覚えてます」
「妙なところで記憶力いいな」
「方向感覚もいいです」
「それは絶対嘘だろ」
話を逸らされた。
リリアはじっとアレンを見る。
赤い髪に赤い瞳。
いつも堂々としていて、隠し事などできなさそうな人なのに、自分と初めて会った時から時折おかしな言葉を口にする。
「アレン先輩」
「何だよ」
「私と前に会ったことあります?」
アレンの顔から表情が消えた。
ほんの一瞬だった。
けれどリリアは見逃さなかった。
「……ねえよ」
「今、間がありました」
「うるせえ」
「嘘ですか?」
「違う」
「じゃあ目見て言ってください」
「お前な……」
アレンが苛立ったように髪を掻く。
それから逃げるように歩き出した。
「食堂行くんだろ。さっさと来い」
「誤魔化した」
「置いてくぞ」
「待ってください」
「一人で行けるんじゃなかったのか?」
「それとこれは別です」
「都合いいな!」
結局、リリアはアレンの隣を歩いた。