魔法より、君に恋をする。
放課後。

 寮へ戻る途中、リリアはセシルと別れ、一人になったノアと並んで歩いていた。

「今日は楽しかった」

 リリアが言う。

「実習?」

「ノアといるのが」

 朝の質問をそのまま返しただけだった。

 けれどノアは少し驚いたようにこちらを見る。

「……それ、今言う?」

「駄目?」

「駄目じゃないけど」

 ノアは困ったように笑った。

「僕ばっかり好きになりそうで困る」

「?」

「気にしないで」

「ノア、今日それ多いね」

「そうだね」

 夕陽の中を二人で歩く。

「明日も一緒に昼食べようね」

「うん」

「明後日も」

「いいよ」

「その次も?」

「なんで毎日確認するの?」

「確認したいから」

「いいけど」

 リリアが答えるたび、ノアは嬉しそうに笑った。

「三年って長いね」

 昼間と同じことを言う。

「さっきも言ってたね」

「うん」

「そんなに学院嫌?」

「逆だよ」

 ノアは少しだけ空を見上げた。

「終わってほしくないんだ」

「まだ始まったばっかりだよ」

「そうだね」

 ノアは笑う。

「今度こそ、ちゃんと最後までいられたらいいな」

 リリアは足を止めた。

「今度こそ?」

 ノアも止まる。

 一瞬だけ。

 本当に一瞬だけ、失敗したという顔をした。

 けれど次の瞬間には、いつもの笑顔へ戻っている。

「学院生活の話。途中で退学とかしたくないってこと」

「ノア、退学する予定あるの?」

「ないよ」

「じゃあ大丈夫でしょ」

「うん」

 リリアは再び歩き出した。

 ノアもその隣へ並ぶ。

 追及されなかったことに安堵したはずなのに、胸の奥には別の痛みが残った。

 彼女は何も覚えていない。

 自分が何度その手を掴もうとしたのかも、何度間に合わなかったのかも知らない。

 それでいい。

 今はまだ、知らなくていい。

 ノアは隣を歩くリリアを見た。

「リリア」

「何?」

「明日も会おうね」

 リリアが怪訝そうな顔をする。

「同じクラスなんだから会うでしょ」

「そうなんだけど」

「変なの」

「うん」

 ノアは笑った。

 明日会えることが当たり前だと言う彼女の隣で、その当たり前がたまらなく嬉しかった。
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