魔法より、君に恋をする。
「だからこの程度、自分で治せるっつってんだろ」

「じゃあなんで治してないんですか?」

「面倒だから」

「なら私がやります」

 治療室は混雑していたため、二人は廊下の長椅子で待つことになった。

 リリアはアレンの腕を取り、裂けた袖を少し上げる。

「触るぞ」

「もう触ってます」

「……そういう意味じゃねえ」

「?」

「何でもねえよ」

 リリアは小さな治癒魔法を傷口へ流した。

 淡い光が皮膚を包む。

「先輩」

「あ?」

「さっき、なんで私を庇ったんですか?」

「目の前にいたから」

「私、自分で防げました」

「知ってる」

「じゃあなんで?」

 アレンは答えない。

「アレン先輩?」

「……身体が勝手に動いた」

「それで怪我したんですか?」

「大した怪我じゃねえだろ」

「でも私より先に自分が傷つくの、良くないと思います」

 アレンの顔が強張った。

「私、守られるだけじゃないですよ」

「分かってる」

「強いです」

「知ってる」

「先輩より強いかも」

「それは今度決着つける」

「受けます」

「即答すんな」

 アレンが呆れたように笑う。

 リリアも少し笑った。

「でも、本当に無茶しないでください」

「……」

「誰かを守るためなら自分は怪我してもいい、みたいなの嫌です」

 アレンの表情が消えた。

 リリアは治癒魔法に集中していて、その変化に気づかなかった。

「一緒に無傷が一番いいです」

 傷が塞がる。

「はい。終わり」

 顔を上げた時、アレンはリリアを見つめていた。

「……何ですか?」

「お前がそれ言うのかよ」

「?」

 低い声だった。

「先輩?」

 アレンは目を伏せる。

「……何でもねえ」

「またそれ」

「今は聞くな」

 いつもの乱暴な声なのに、そこだけは妙に弱かった。

 リリアは少し迷ったが、それ以上は聞かなかった。

「分かりました」

 意外だったのか、アレンがこちらを見る。

「聞かねえの?」

「今はって言ったので」

「……そうかよ」

「その代わり、いつか教えてください」

「何を」

「先輩が私を知ってるみたいなこと言う理由」

 逃げ道を塞ぐように告げる。

 アレンはしばらく黙っていた。

「……覚えてたのか」

「忘れませんよ」

「そういうとこだけ本当に変わらねえな」

 言ったあとで、アレンが目を見開く。

 リリアも瞬いた。

「今の」

「忘れろ」

「嫌です」

「即答すんな!」

「やっぱり知ってるんじゃないですか」

「知らねえ!」

「じゃあ何が変わらないんですか?」

「うるせえ!」

「声大きいです」

「誰のせいだ!」

 治療室から教師が顔を出した。

「廊下では静かにしろ!」

「すみません」

 リリアが素直に謝る。

「……すんません」

 アレンも渋々頭を下げた。

 教師が戻る。

 二人はしばらく黙っていた。

 やがてリリアが小さく吹き出した。

「何笑ってんだよ」

「アレン先輩も怒られるんですね」

「そりゃ怒られるだろ」

「もっと先生にも喧嘩売るタイプかと思ってました」

「お前、俺を何だと思ってんだ」

「いつも機嫌悪い人」

「まだ言うか」

 アレンも笑った。

 初めて見た気がする。

 皮肉でも挑発でもない、普通の笑顔だった。

「先輩、笑った方がいいですよ」

「あ?」

「その方が格好いいです」

 アレンの笑顔が止まった。

「……お前」

「はい?」

「そういうの簡単に言うな」

「セシルにも言いました」

「は?」

「格好いいって」

 アレンの眉間に一気に皺が寄る。

「……あいつにも?」

「はい。剣術すごかったので」

「俺とどっちが格好いい」

「なんで比べるんですか?」

「いいから答えろ」

「セシル」

「即答すんな!!」

 廊下にアレンの声が響く。

 再び治療室の扉が開いた。

「静かにしろと言っただろう!」

「先輩、また怒られてます」

「お前のせいだろうが!」
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