魔法より、君に恋をする。
放課後、リリアはセシルの剣術部の練習を見に来ていた。

「また来たのか?」

「駄目?」

「駄目じゃない」

 セシルはすぐに答えた。

「むしろ嬉しい」

 言ってから、少しだけ視線を逸らす。

 リリアは気にせず観覧用の長椅子へ座った。

 以前ほどではないが、今日も女子生徒の姿が多い。

 セシルが剣を握ると、その空気が変わる。

 普段は穏やかで面倒見がいいのに、試合になると目つきが鋭くなり、余計な動きがなくなる。

 やっぱり格好いい。

 昼休みに言ったことを思い出す。

『会いたくなる』

 セシルにはよく会う。

『触れたい』

 手もよく繋ぐ。

『他の子といると嫌』

 リリアは練習相手と話しているセシルを見る。

 特に嫌ではない。

『特別扱いされたら嬉しい』

 それは、少し嬉しいかもしれない。

「……分からない」

 一人で呟く。

「何が?」

 いつの間にか練習を終えたセシルが目の前に立っていた。

「恋愛」

「……は?」

 珍しく間の抜けた声が出た。

「今日、クラスで話してた」

「何を?」

「好きな人がいるかって」

 セシルの手から木剣が落ちかけた。

「……それで?」

「いないって言った」

「そうか」

 返事が少し早かった。

「なんで安心したの?」

「してない」

「した顔だった」

「お前、変なところだけ鋭いな」

 セシルは隣へ座った。

「それで、何が分からないんだ?」

「恋愛で好きなのと、友達として好きなのって何が違うのかなって」

「私に聞くな」

「セシルも分からない?」

「……分からないわけじゃない」

「好きな人いるの?」

 セシルが黙った。

 ほんの一瞬、灰青色の瞳がリリアを見る。

「いるよ」

「そうなんだ」

「……驚かないのか?」

「なんで?」

「いや」

 セシルは小さく息を吐いた。

「お前らしい」

「どんな人?」

「それ聞く?」

「嫌ならいい」

「……綺麗な子」

「へえ」

「強くて、変なところで頑固で、放っておくとすぐどっか行く」

「大変そう」

「本当にな」

「でも好きなんだ」

「好きだよ」

 迷いのない返事だった。

 リリアは少し羨ましくなる。

「いいな」

「何が?」

「ちゃんと分かるの」

「分からない方が楽なこともある」

「なんで?」

「相手が鈍いと特に」

「鈍い人なんだ」

「ものすごくな」

 セシルが遠い目をする。

「言えばいいのに」

「……簡単に言うな」

「好きって?」

「そう」

「ノアは今日言ってたよ」

 セシルが勢いよくこちらを向いた。

「何?」

「好きって」

「……ノアが?」

「うん」

「お前に?」

「うん」

「それで?」

「私も好きって言った」

 セシルが完全に固まった。

「友達として」

「先に言え!」

「びっくりした」

「こっちがびっくりしたんだよ!」

 珍しく声を荒らげたセシルを見て、リリアは目を丸くした。

「そんなに?」

「そんなにだよ」

「なんで?」

「……知らない」

「機嫌悪くなった?」

「なってない」

「なってる」

 セシルは両手で顔を覆った。

「リリア」

「何?」

「お前、もう少し自覚持った方がいいぞ」

「何の?」

「……それが分からないから困ってるんだよ」

 よく分からない。

 けれどセシルの耳が赤い。

「暑い?」

「違う」

「顔赤いよ」

「見るな」

「なんで?」

「いいから!」

 リリアはますます分からなくなった。
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