魔法より、君に恋をする。
 魔法具店を出た後は、セシルが知っている焼き菓子店へ向かった。

 店先には小さな丸い焼き菓子が並び、甘い香りが通りまで漂っている。

「これ美味しい」

 リリアが一口食べて言う。

「良かった」

 セシルが笑った。

「セシルのは?」

「同じ」

「ノアは?」

「僕はこっち」

 ノアが持っているのは、果実のジャムが入ったものだった。

「一口いる?」

「いる」

 リリアが口を開く。

 ノアの動きが止まった。

「……え?」

「くれるんでしょ?」

「いや、そうだけど」

「早く」

「リリア、お前……」

 セシルが額を押さえる。

「何?」

「何でもない」

「また?」

 ノアはしばらく固まっていたが、やがて楽しそうに笑った。

「はい」

 焼き菓子をリリアの口元へ運ぶ。

 リリアは一口かじった。

「こっちも美味しい」

「……そう」

「ノア、顔赤いよ」

「気のせい」

「暑い?」

「そういうことにしておいて」

「その言い方嫌い」

「知ってる」

 言った瞬間、ノアがわずかに目を見開いた。

 リリアも気づく。

「……なんで?」

「何が?」

「私がその言い方嫌いなの、言ったっけ?」

「さっきも似たようなこと言ってなかった?」

「言ってない」

「……じゃあ、勘かな」

 ノアは笑う。

 あまりにも自然に。

 リリアはその顔をじっと見た。

「ノア」

「ん?」

「やっぱり怪しい」

「傷つくなあ」

 笑顔は崩れなかった。
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