魔法より、君に恋をする。

第十章 黒い石と赤い月

休日が明けた月曜日、リリアは朝から上機嫌だった。

「見て」

 教室へ入ってきたセシルを呼び止め、掌に乗せた銀色の方位針を見せる。

「ちゃんと持ってきたんだな」

「大事にするって言ったから」

「それはいいけど、使えてるのか?」

「もちろん」

「今日は迷わなかった?」

「迷ってない」

「寮から教室まで?」

「うん」

「方位針いらないだろ」

 言われてみればそうだった。

「練習」

「何の?」

「本番に備えて」

「迷子になる本番って何だよ」

 セシルが笑いながら隣の席へ鞄を置く。

 少し遅れてやってきたノアも、リリアの手元を見て嬉しそうに目を細めた。

「使ってくれてるんだ」

「うん」

「どう?」

「便利」

「良かった」

「まだ寮から教室までしか使ってないけど」

「……そこ、迷わないよね?」

「セシルにも言われた」

「だよね」

 ノアは笑いながら自分の席へ座った。

「でも、ちゃんと持っててよ。せっかくあげたんだから」

「持ってるよ」

 リリアは方位針を制服のポケットへ戻す。

 その時だった。

 小さく、針が震えた。

「……?」

 もう一度取り出す。

 銀色の針が細かく揺れている。

「どうした?」

 セシルが覗き込む。

「壊れたかも」

「昨日買ったばっかりだよ!?」

 ノアが悲しそうな声を出した。

「何もしてない」

「リリアが言うとちょっと怖いな」

「失礼」

 掌の上で、針がゆっくり回る。

 学院の方角を示すよう登録したはずなのに、今は教室の窓側を指していた。

「……こっち?」

 リリアが窓を見る。

 その向こうには、中庭と別棟が見える。

「魔力に反応してるのかな」

「方位針が?」

「これ、場所そのものじゃなくて登録した魔力を追うんだよね?」

 ノアが頷く。

「そうだけど」

「じゃあ、学院の魔力より強い何かに引っ張られてるのかも」

「そんなことある?」

「分からない」

 リリアは方位針を見つめた。

 震えは数秒で収まった。

 針も元の方向へ戻る。

「……放課後、見に行く」

「駄目」

 セシルとノアの声が同時に重なった。

「なんで?」

「なんでじゃない」

「絶対何か変なもの見つけるでしょ」

「だから見に行くんだけど」

「そう言うと思った」

 セシルが額を押さえた。

「せめて一人で行くな」

「じゃあ一緒に来る?」

「行く」

「僕も」

「決まり」

 リリアは満足して方位針をしまった。

 どうして二人が疲れたような顔をしているのかは分からなかった。
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