魔法より、君に恋をする。
結局、リリアたち一年生が封鎖区域へ入ることは許されなかった。

 それ自体には納得した。

 危険性が分からない以上、教師が生徒を近づけないのは当然だ。

 問題は、リリアの方位針がずっと北棟を指していることだった。

 昼休みになっても変わらない。

「やっぱり気になる」

 食堂で方位針を眺めながら、リリアは呟いた。

「顔がもう調べに行く人の顔なんだよな」

 セシルが向かいで言う。

「行かないよ」

「本当?」

「封鎖されてるから」

「意外と常識あるね」

 ノアが感心したように言う。

「私を何だと思ってるの?」

「魔晶石を壊した人」

「方向音痴」

「首席」

「最後だけ褒めた?」

「全部事実だよ」

 リリアが不満そうにパンをちぎる。

 その時、食堂の入口が少し騒がしくなった。

 三年生が入ってくる。

 カイルだった。

 普段なら食堂で見かけても気にしない。

 けれど今日は、右手に薄い包帯が巻かれていた。

 リリアは立ち上がった。

「ちょっと行ってくる」

「どこに?」

「クロフォード先輩」

 セシルとノアが振り返る。

「怪我してる」

 リリアはそのままカイルのもとへ向かった。

「クロフォード先輩」

 呼び止めると、カイルがこちらを見る。

「アステル」

「手、どうしたんですか?」

「何でもない」

「それ禁止にしません?」

「何が」

「何でもないって言うの」

「……」

 カイルが黙った。

「北棟?」

 リリアが尋ねる。

「違う」

「嘘」

「なぜ分かる」

「今、目逸らしたから」

 カイルは自分でも気づいていなかったらしい。

「先輩も嘘下手ですね」

「誰と比べてる」

「アレン先輩」

「……あいつよりはましだ」

「そこ張り合うところですか?」

 カイルは小さく息を吐いた。

「少し魔力に触れただけだ。大した傷じゃない」

「何の魔力?」

「まだ分からない」

「見せてください」

「嫌だ」

「なんで?」

「食事中だろ」

「じゃあ食べ終わったら」

「必要ない」

「あります」

「アステル」

「私、治癒魔法も得意です」

「知ってる」

 リリアの動きが止まった。

「……なんで?」

 カイルも止まる。

「私、先輩の前で治癒魔法使ったことありました?」

「……入学試験の成績を見た」

「治癒魔法の詳細まで?」

「見た」

「本当に?」

「……」

「目見てください」

「お前は最近そればかりだな」

「みんな嘘つくからです」

 カイルはしばらくリリアを見ていたが、やがて諦めたように息を吐いた。

「後で話す」

「本当に?」

「ああ」

「逃げません?」

「逃げない」

「約束?」

 その言葉に、カイルの表情がわずかに強張った。

 ほんの一瞬だった。

「ああ」

 低い声で答える。

「約束する」

     
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