魔法より、君に恋をする。
 寮へ戻る頃には、辺りはすっかり暗くなっていた。

 二人はまた手を繋いで歩いていた。

「そういえば」

 リリアが言う。

「セシルって、なんで剣始めたの?」

「家が騎士の家系だからっていうのもあるけど……最初は兄に負けたのが悔しかったから」

「お兄さんいるんだ」

「二人ね」

「セシルが一番下?」

「そう」

「意外」

「どういう意味?」

「面倒見いいから、お姉ちゃんかと思った」

「リリアの世話をしてるからじゃない?」

「世話されてる?」

「されてる自覚なかった?」

「友達だと思ってた」

 セシルが笑った。

「友達だよ」

「ならよかった」

 その言葉に、セシルの胸が少しだけ痛んだ。

 友達。

 最初は、それで十分だった。

 入学初日に噴水の周りを三周していた銀髪の少女を見つけて、放っておけなくて声をかけた。

 綺麗な子だと思った。

 話してみたら変な子だった。

 強くて、頭が良くて、妙なところで鈍くて、一緒にいると飽きなかった。

 友達になれたことが嬉しかった。

 それだけだったはずなのに。

「セシル?」

「何?」

「手、強い」

 無意識に握る力が強くなっていた。

「ごめん」

 緩める。

「痛かった?」

「全然」

 リリアは手を離さなかった。

 むしろ握り直す。

「これくらい平気」

「……そっか」

 また胸が騒ぐ。

 友達だから手を繋ぐ。

 迷子になるから手を繋ぐ。

 人混みではぐれないために手を繋ぐ。

 理由なら、いくらでも作れる。

 けれど今日、自分は言ってしまった。

『繋ぎたいから』

 あれが一番正しかった。

 理由なんて、もう必要なかった。

「リリア」

「何?」

「もしさ」

「うん」

「女の子から告白されたら、どうする?」

 リリアは少し考えた。

「その子を好きなら付き合う」

「……本当に?」

「前にも言ったでしょ。女の子を好きになるのも別におかしくないって」

「そうだったね」

「でも好きじゃなかったら付き合わない」

「男でも?」

「同じ」

 迷いのない返事だった。

「王子様でも?」

「同じ」

「すごいな」

「何が?」

「本当に相手の肩書きとか関係ないんだね」

「好きになるのに必要?」

「普通は少しくらい気にするんじゃない?」

「私は知らない」

 リリアは前を向いたまま言う。

「その人が好きかどうかで決める」

 セシルは足を止めそうになった。

 けれど止まらなかった。

 繋いだ手の温度だけを感じながら歩く。

「……そっか」

 胸の奥で、何かが静かに形を持ち始めていた。

     
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