魔法より、君に恋をする。
 女子寮へ着いた。

「じゃあ、また明日」

「うん」

 手を離す。

 少しだけ惜しいと思った。

 以前なら、そんなことはなかった。

「セシル」

「何?」

「今日迎えに行けなくてごめん」

「まだ気にしてたの?」

「次はちゃんと迎えに行く」

「いいよ。私が迎えに行くから」

「でも」

「じゃあ」

 セシルは少し考えた。

「今度の休み、二人で出かける?」

「いいよ」

 あまりにも簡単に返事をされた。

「……即答だね」

「行きたくないの?」

「行きたい」

「じゃあ行こう」

「うん」

 リリアが笑う。

「楽しみ」

 その笑顔を見た瞬間、セシルはようやく認めた。

 多分、もう友達という言葉だけでは足りない。

 いつからなのかは分からない。

 初めて手を繋いだ時か。

 剣を振る自分を格好いいと言われた時か。

 女の子を好きになることを、何でもないことのように肯定された時か。

 あるいは、もっと前。

 噴水の前で初めて出会った時から、少しずつ始まっていたのかもしれない。

 それでも今すぐ伝えようとは思わなかった。

 リリアはまだ、恋が何なのか自分で確かめようとしている。

 その答えを急がせたくない。

 何よりセシル自身が、もう少しこの距離を大切にしたかった。

「また明日、リリア」

「また明日、セシル」

 リリアが寮へ入っていく。

 扉が閉まる。

 セシルは一人になってから、自分の右手を見た。

 さっきまで繋いでいた温度が、まだ残っている気がする。

「……参ったな」

 小さく笑う。

 女子生徒たちから《白銀の王子》と呼ばれても、何とも思わなかった。

 どれだけ格好いいと言われても、照れたことなどほとんどない。

 それなのに、たった一人の女の子に名前を呼ばれるだけで嬉しい。

 手を繋ぎたいと思う。

 二人で出かけたいと思う。

 いつか、自分を選んでほしいとまで思ってしまう。

 どうやらこれは、友達に向ける気持ちではないらしい。

 セシルはようやく、それを認めた。
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