私ばかりが本気だと思って別れを告げたら、完璧上司の余裕が崩れました【ヒロイン視点改稿版】
 まさか、好きな人と初めてキスをしたからです、などとは言えるはずもない。キス一つで喜ぶなんてちょっと年甲斐がないと思うし、雅芳との交際は職場ではまだ誰にも話していないからだ。松永に雅芳が好きだと打ち明けたことはないけれど、普段の言動から見抜かれている可能性はある。
 幸い松永はそれ以上追及することなく、「ふーん」と気のない返事をすると、佳穂の手元を覗き込んだ。

「ていうか、それ観月がやること? 総務にでも任せとけばいいんじゃないの」
「いいの。私が気になっただけだから。それに、今やっちゃったほうが気持ちよく仕事始められるでしょ」
「相変わらずだなあ。観月って人に怒ることあんの?」

 唐突に聞かれて佳穂はキョトンとする。

「あるよ。普通に」
「へえ。たとえば?」

 あらためて聞かれると、すぐには思いつかず、少し考え込む。

「……接待の席で、取引先の人にセクハラっぽいこと言われたときとか?」
「あー、いるいる。今どきまだ女にはなに言ってもいいと思ってるおっさん」
「おっさんって。お客様なんだから」

 思わず吹き出すと、松永は肩をすくめた。
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