私ばかりが本気だと思って別れを告げたら、完璧上司の余裕が崩れました【ヒロイン視点改稿版】
 交際を初めて一ヶ月半が経とうとする頃、佳穂はちょっとした不満を抱えていた。
 雅芳が二回目のキスをしてくれないのだ。



「じゃ、おやすみ」

 食事の帰り、いつものように自宅まで佳穂を送り届けた雅芳は、それだけを告げてあっさりと背を向けようとする。

「あ、待っ……」
「ん?」

 思わず呼び止めてしまった佳穂は、雅芳の不思議そうな顔を見て言葉に詰まる。

 ――名残惜しいと思っているのは、私だけ?

 そう思うと、引き止めるようなことはとても口にできなくて、佳穂はぎこちなく作り笑いを浮かべた。

「……いえ、なんでもないです。おやすみなさい」

 すると、雅芳は少し考えるような素振りを見せて、再び佳穂の前に戻ってくる。
 と思ったら、彼の片腕が背中に回ってその広い胸に引き寄せられていた。
 雅芳の身につけている香水がほのかに香って、服越しに感じる身体の逞しさに無性にドキドキする。
 彼はそのままの体勢で優しく佳穂の背中を二度叩き、

「おやすみ」

 そう耳元で囁いて、離れた。
 トントントン、と乱れのない足取りでアパートの外階段を下りていく背中を、佳穂は言葉を失ったまま見送る。
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